【超詳細】無主地 -どこの国でもない土地-3選

世界の変わった国・場所

世界中の多くの国で領土紛争が行われています。日本においても、北方領土、竹島、尖閣諸島といった具合に近隣諸国と揉めているのが現状です。そのほとんどが両国が互いにその地域の領有権を主張しているためです。

しかし、世界にはわずかながらではありますが、どの国にも属していない地域があります。いずれの国家によっても領有権を主張されていない土地を無主地と言います。今回は、そんな奇妙な土地を3例ご紹介したいと思います。

ビル・ターウィル(アフリカ)

ビル・タウィールエジプトとスーダンの国境地帯にある地域です。境界線は全て直線で構成されており、北の境界は北緯22度線であり、面積は2060㎢にも及びます。かつては遊牧民族アバブダ人が暮らした「深い泉」という意味の土地ですが、現在は砂漠が広がる不毛地帯です。現在、エジプトとスーダンの両国がこの土地の領有権を放棄しています。

© OpenStreetMap contributors https://www.openstreetmap.org/copyright 

その理由を解説するにあたって、避けては通れない地域がもう一つあります。ハラーイブ・トライアングルという、ビル・タウィールの東北側、紅海に接する22度緯北の地域です。ズバリ、両国とも「ハラーイブ・トライアングルが自国のもので、ビル・タウィールは相手国のもの」と主張しているのです。

ハラーイブ・トライアングルはビル・タウィールの10倍近くの面積を持つ地域です。加えて、紅海にも面しており資源にも恵まれているため、土地の重要性は圧倒的に上です。

Sally WilsonによるPixabayからの画像

どうしてこのような奇妙な問題が起こっているかというと、ハラーイブ・トライアングルとビル・タウィールをかつて2ヵ国ともに領有していた時代があるからです。エジプトは1899年、イギリスがエジプトとスーダンの境界線を北緯22度線と設定した際に。スーダンは1902年、またもイギリスが新しい行政境界線を引きなおした際に領有していました。

両国が共に領有していた過去から、圧倒的に魅力的なハラーイブ・トライアングルを自国のもの、不毛地帯のビル・タウィールを相手国のものとお互いが主張するようになってしまったのです。現在、ハラーイブ・トライアングルはエジプトが実行支配しています。

一方ビル・タウィールでは、アメリカ人のエレッミア・ヒートン氏が、当時6歳の娘の「本物の王女様になりたい」という夢を叶えるためにこの地を訪れ、砂漠の中に勝手に旗を立て「北スーダン王国」の設立を宣言しました。当然どの国からも認められておりません。

ゴルニャ・シガ(ヨーロッパ)

ゴルニャ・シガはクロアチアとセルビアの国境地帯に位置する地域で、ドナウ川西岸よりの面積7㎢ほどの中州です(画像の緑色の部分)。このエリアは、元々はセルビアの領土でしたが、ユーゴスラヴィア内戦の結果クロアチアが支配するようになりました。

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Croatia_Serbia_border_Backa_Baranja.svg

戦後、クロアチアはこの辺りの国境線を自国に有利になるように引こうと画策しました。オーストラリア=ハンガリー帝国時代の境界線を持ち出し、画像の赤いラインが国境線と主張し、黄色のマークのエリアは自国領と主張したのです。一方、セルビアは国境をドナウ川の中間線と主張しており、ゴルニャ・シガ(緑色の部分)はクロアチア領だと主張し、返還を拒否しました。

こういった経緯から、両国共に領有を拒否されたゴルニャ・シガは無主地となってしまったのです。国境紛争中のゴルニャ・シガに、さらに大きな問題が飛び込んでまいりました。1人の男性が、「この土地に国を建国する」などと言い出したのです。

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Flag_of_Liberland.svg

2015年4月13日、この無主地に目をつけたチェコ人のヴィト・イェドリチカ氏は、友人らとこの地を訪れて、この土地に「リベルランド」を建国すると一方的に宣言したのです。国際法上において、無人島などは最初に見つけた国が領土にすることができます。その法にならって堂々と大統領を名乗り、自らの領土を主張しました。

とはいえ、現在ゴルニャ・シガという土地に政府の建物があるわけでも、人が住んでいるわけでもありません。というのも、この事態に激怒したクロアチアはリベルランドに入国しようとしたイェドリチカ氏を逮捕し、罰金まで科そうとしました。翌年の2016年以降は、クロアチアへの入国も拒否されたようで、リベルランドは「大統領(自身)すら入国できない国」として当時話題になりました。

クロアチアからの入国ができない以上、イェドリチカ氏が入国できる方法はたった1つになります。比較的寛容なセルビアのアパティンという都市からドナウ川を遡行して上陸しています。セルビアは都市への経済的メリット等を考慮し、好意的に対応しています。しかし、河川からも国境警察が巡回しており、上陸することはできません。そのためリベルランドの対岸にあるボートハウスが現在の拠点となっています。

マリーバードランド(南極)

マリーバードランドは南極大陸の西部、東南太平洋の方向にあたる地域です。この地域は1929年、アメリカのリチャードE.バード提督によって探検が行われ、提督の妻に敬意を表して名付けられました。マリーバードランドは地球上で最大規模の無主地と言えます(面積1,610,000㎢)。

そもそも南極はどこの国の領土かというとどこの国の領土でもありません。しかし、これまで数多くの国が領有権を主張してきました。最も早かったのは1908年のイギリスで、これを皮切りに各国が続々領有権を主張し、地域が被ってしまいました。そこで、1959年に南極条約が締結され、南極大陸での軍事的利用の禁止とともに、領土主権、請求権は凍結されました

領土主権は凍結されただけで否定や放棄されたわけではありません。現在も各国が領有主張を続ける中、最初から一切領土主張されていないエリアが存在しました。それこそが、マリーバードランドなのです。

マリーバードランドがどの国からも領土主張されなかった最大の理由は地球儀を見ると理解しやすいです。マリーバードランドを北上するとそこはどの大陸も島も存在しない絶海になります。南極探検家たちにとって最もアクセスしにくい土地だったのです。その証拠にマリーバードランドには南極基地は存在しません。

WikiImagesによるPixabayからの画像

まとめ

世界に現存する3つの無主地を見てきました。マリーバードランドは事情や立地が特殊なので、他の土地とは毛色が異なりましたが、ビル・タウィールとゴルニャ・シガは似たような共通点を持っていました。

無主地が発生する要因は、その地域に接する2ヵ国が共にその領有権を放棄しているためです。そして、お互いが領有権を放棄する背景には、(不要である)その土地を相手国に譲ることで、(魅力的な)他の土地を自国領土に組み込むためと考えられます。つまり、2土地間の国境紛争が行われているということでした。

幸い日本にはこういう事例はありません。県単位であれば興味深いと思い調べてみましたが、見つかりませんでした。もし、ご存知の方がいればご一報くだされば幸いです。

にほんブログ村 歴史ブログ 地理へにほんブログ村 その他生活ブログ 雑学・豆知識へにほんブログ村 旅行ブログへ

↑よろしければ応援クリックお願いします。

コメント

タイトルとURLをコピーしました