【超詳細】租借地 -他国からリースしている土地- 4選

世界の変わった国・場所

租借とは、国家間の土地の貸し借りのことで、条約で一定期間他国に貸し与えた土地を租借地と言います。その土地の使用権や利用権だけに限定される場合もあれば、立法・行政・司法権などの統治権まで及ぶ場合もあります。

歴史上有名な租借地としては、イギリスの香港やポルトガルのマカオ、アメリカのパナマ運河、ごく最近では、ウクライナのセヴァストポリなどが挙げられます。これらはいずれも過去の租借地であり、現在は租借期限が切れ返還あるいは併合されております。

現在世界に4例しかない、自国の法律の及ばない土地である「租借地」をご紹介したいと思います。

バイコヌール (カザフスタン)

バイコヌールはカザフスタン共和国にある都市で、現在はロシア連邦が使用権を持ち管理しています。バイコヌールは1955年に宇宙基地建設のために作られた都市で、かつてはレニンスクと呼ばれる閉鎖都市でした。当時は大陸間弾道弾(ICBM)の打ち上げがメインでしたが、現在は宇宙飛行士を送り込む有人宇宙輸送手段に力を入れています。2021年12月にZOZO創業者で実業家の前澤友作さんが搭乗した宇宙船が打ち上げられた場所も、このバイコヌールの宇宙船基地でした。

ソ連崩壊後バイコヌールはカザフスタン領になりましたが、ロシアはこの宇宙基地を手放すことができませんでした。その理由は、ロシアにとって最も赤道に近い宇宙基地だったためです。赤道に近ければ近いほど地球の自転する遠心力を利用し、ロケットの打ち上げに使用する燃料を節約できます。ロケットの全重量の90%が燃料のため、この問題は非常にシビアでした。宇宙産業に精力的なロシアにとってこのバイコヌールは是が非でも治めておきたい場所でした。

WikiImagesによるPixabayからの画像

そこで高額な賃借料を支払い町全体を租借(リース)することで合意致しました。その金額は年間1億15000万ドルリース料に加え、5000万ドルメンテナンス費も含めて日本円でざっくり200億円にまで及びます。バイコヌールの行政権はロシアが握っており、市長はロシア大統領が推薦し、ロシアの法律が適用されます。通貨もロシアのルーブルが流通しており、実質ロシア領と言えます。

wikipediaより https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Baikonuriss.jpg

ここ最近は非常に高額な賃借料を少しでも軽減するため、バイコヌール宇宙基地での光熱費等を従来の半分の費用にすることが検討されるなど経費節減に向けて動きがみられます。加えてカザフスタン領内にあるため、落下地域の制約、ロケット燃料による環境汚染問題に対するカザフスタンの反発などが激しくなり、思うように開発ができない事態となりました。

© OpenStreetMap contributors https://www.openstreetmap.org/copyright 

こうした背景からロシアはバイコヌール宇宙基地の依存を下げるために極東ロシアボストチヌイ宇宙基地の建設を進めています。バイコヌールの租借期間は2050年までとなっていますが、ロシアの方向転換に焦ったカザフスタン側が「バイコヌール宇宙基地を恒久的に使用して欲しい」と要望を出す事態となっています。

地域本国租借国租借期間
バイコヌールカザフスタンロシア1994年-2050年

サイマー運河(ロシア)

サイマー運河はフィンランドのサイマー湖とロシアのヴィボルグにまたがって張り巡らされた運河です。フィンランド南東部は非常に多くの湖が点在しており、運河や水路で結ばれています。サイマー湖は運河の玄関口であり、サイマー運河は海(フィンランド湾)へとアクセスする重要な要所なのです。

1856年に開通したサイマー運河と河口の都市ヴィボルグは元来フィンランドのものでしたが、第二次世界大戦時にソ連に領土を強奪され分断されてしまいました。その結果、海運航路を封鎖されたフィンランドは、ロシアと条約を結び1963年から50年間、サイマー運河のロシア側と河口にあるマリー・ヴィソツキー島を租借することとなりました。

© OpenStreetMap contributors https://www.openstreetmap.org/copyright 

この島は広い海洋から狭い運河を通るために小型船への積み替えを行う中継基地として利用されていました。しかし、その後運河の拡張工事が行われ、大型船がそのまま通れるようになったため、この島の役目は無くなり、2013年に租借期限を迎えてロシアの管理下に戻されることとなりました。

Saimaan kanavaa – Mälkiä https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Saimaa_canal_at_Lappeenranta_Finland.jpg

その一方で、サイマー運河の租借はさらに50年更新され、2062年まで延長されました。更新の際、年間租借料が従来の29万ユーロから122万ユーロ(約1億5千万円)までに引き上げられましたが、今やフィンランド南東部の輸送の大動脈となっているため、どうしても失うわけにはいかないのです。

地域本国租借国租借期間
サイマー運河ロシアフィンランド1963年ー2062年
マリー・ヴィソツキー島ロシアフィンランド1963年ー2013年(期限切れ)

グァンタナモ・ベイ(キューバ)

グァンタナモ・ベイはキューバ東端に位置し、アメリカ海軍の基地であるグァンタナモ米軍基地が存在します。1903年から100年以上アメリカがキューバから租借しています。ここは現代まで続く「アメリカの闇」が存在する場所で、これまでの他の租借地とは事情が大きく異なります。

© OpenStreetMap contributors https://www.openstreetmap.org/copyright 
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Guantanamo.jpg

そもそも敵国であったキューバに基地が存在することが意外ですが、ことの発端は1898年のスペインとの戦い(米西戦争)でした。戦争に勝利したアメリカはキューバを占領したのちに、独立を援助しました。その際、キューバ政府はアメリカにグァンタナモ・ベイの永久租借権を与え事実上アメリカの海外領土となりました。以降、アメリカは年間4000米ドル(約50万円)という破格の安さでこの土地を治めてきました。

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:US_Navy_100506-N-8241M-191_An_aerial_view_of_Bulkeley_Hall_at_Naval_Station_Guantanamo_Bay,_Cuba._Bulkeley_Hall_is_the_naval_station_headquarters_and_administration_building.jpg

後のキューバ―革命によって成立したカストロ政権は、アメリカ合衆国の基地租借を非合法と非難し一貫して返還を希望してきました。しかし、現在に至るまでアメリカは返還することもなく基地を利用し続けています。つまり、ここでは租借というよりは領土問題が発生しているのです。

さらにこの基地は非常にやっかいな問題を抱え込んでいます。21世紀以降、この基地に「テロ容疑者の収容所」が設置されたのです。アメリカ同時多発テロのテロ組織、中東のテロリストなどが収容されています。なぜここに収容されているかを端的にいうと「人権を与えないため」です。

アメリカ合衆国憲法下では被疑者の人権を保障しなければいけませんが、このグァンタナモは、キューバ国内でもアメリカ国内でもなく、国内法でも国際法でもない軍法のみが適用される治外法権区域のため、拷問しようが苛酷な尋問をしようが違法には当たりません。加えて、周囲は地雷だらけで脱走が不可能な上、マスメディアも入ることもできない究極のブラックボックスです。

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Camp_Delta,_Guantanamo_Bay,_Cuba.jpg

アメリカが完全な管轄権を持ち、かつ米国の主権下ではない「無法地帯」「グレーゾーン」となったグァンタナモ基地は、年々国際社会から批判を浴びるようになりました。かつて、オバマ元大統領は基地閉鎖を目指しましたが実現はできませんでした。同じく、ジョー・バイデン大統領も任期中に同施設の閉鎖予定を公言しており、アメリカ国内では度々注目されています。ちなみに、この基地の敷地内にはキューバ唯一のマクドナルドが存在しています。

地域本国租借国租借国期間
グァンタナモ・ベイキューバアメリカ1903年-永久租借

ディエルゴガルシア島(イギリス)

ディエルゴガルシア島はインド洋のチャゴス諸島にある環礁です。現在、島全体がアメリカに貸し出されており、インド洋におけるアメリカ軍最大の軍事拠点となっています。

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Diego_Garcia_(satellite).jpg

かつてチャゴス諸島は、フランス領モーリシャスの一部として入植がはじまり、その後イギリス領となりました。20世紀半ばには1500人近くが暮らすほどまでに増え、「夢の島」と呼ばれるほどに繁栄しました。そんな島に終止符を打ったのがイギリスとアメリカでした。冷戦時、アメリカは中東に近いインド洋に軍事的拠点を置きたいと考えていました。そこで、イギリスは島民への許可も取らずに秘密裏にアメリカに島を丸ごと貸し出す合意を致しました。

とはいえ、モーリシャスが自治権を持つこの島を勝手に売りさばくことはできません。そこで、イギリスはモーリシャス政府に①チャゴス諸島を分離することを条件に悲願の独立を認める、②チャゴス諸島と引き換えにイギリスがモーリシャスに400万ポンド支払う、という条件でチャゴス諸島を正式に買い取り、そこに暮らす住民を全て追い出しました(当然住民は何も知らない)。

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:B-1_Bombers_on_Diego_Garcia.jpg

追放された島民たちは長年島への帰還を主張してきました。イギリス最高裁・交際司法裁判所などで争い、そのたびにイギリスは敗北し返還するように勧告されています。しかし、イギリス政府は国連総会の決議に拘束力がないことや、安全保障の面でチャゴス諸島の軍事基地が役立っていると正当化しており泥沼化しています。

ディエルゴガルシア島は1966年の合意で50年間の租借が決まり、2016年にさらに20年の延長がなされました。イギリスはこの租借の見返りに、ポラリスという核兵器の供給の際にアメリカから1100万ポンドの値引きを受けていました。

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Polaris-a3.jpg
地域本国租借国租借期間
ディエルゴガルシア島イギリスアメリカ1966年-2036年

日本における租借

これまで世界の租借地を見てきましたが、最後に日本での疑問を見ていきたいと思います。ズバリ、在日米軍基地です。

外務省は、「在日米軍基地は、日本の領域であり、日本政府が米国に対しその使用権を許可している。そのため、基地内も日本の法令は適用され、割譲地でも租借地でもない。」と回答していますが、実際は租借以上のことが行われています。

山口県hpより参照 https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/cms/a109002/kichi/kichi-gaiyou.html

そもそもの発端は1960年の日米地位協定ですが、この協定の最大の焦点は、「米国は日本に対し防衛義務を負い、日本は米国に無償で駐屯地と施設を提供するとともに、在日米軍の経費の一部を負担する」という点です。つまり、日本は無償で土地を貸したうえで、お金まで支払っているのです。お金を払って土地を借りている「租借」がかわいく思えるほどに、日本はアメリカに大盤振る舞いな土地提供をしているのです。

防衛省hpより参照 https://www.mod.go.jp/j/approach/zaibeigun/index.html

この米軍租借地ともいえる場所は日本の国土全体の0.28%、沖縄では県全体の16.34%を占めています。日本は見方を変えれば、世界一の租借地提供国(無償)とも言えます。とはいえ、我々が徴兵制もなく平和に暮らせているのは、アメリカが守ってくれているからです。そう考えると、ここまでしても防衛費としては十分安いとも捉えることができます。

実は、日本にも「第2のディエルゴガルシア島」と呼ばれる島があります。九州南端の台湾近海まで連なる南西諸島の島の一つ「馬毛島」です。この島では、新たな自衛隊基地の建設が進んでおります。アメリカ海軍の空母戦艦機による陸上離着陸訓練(FCLP)や自衛隊の訓練を行うための基地で、一つの島をまるごと軍事要塞にするという大胆なものです。この島は2019年に国と地権者の間で約160億円での買収が合意に至りました。とはいえ、依然として地域住民の反対の声も大きく、混沌を極めています。

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コメント

  1. フォイくん より:

    グァンタナモ基地のグレーゾーンについては闇の部分が見えました。法の及ばない無法地帯でテロを起こした方の収容所があるとは…😢
    世界は広いです。

    • Yuzuni より:

      ふぉいさん、コメントありがとうございます☺
      私も調べながらかなり衝撃を受けました。
      世界にはとんでもない理由でとんでもない活用されている場所が
      まだまだありそうですね!それをこれからも紹介していきたいので
      またのお越しをお待ちしております(笑)

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