【解説】日付変更線がいびつな理由(時を歪めた島々5選)

世界の変わった国・場所

海外旅行をする際(特にアメリカ方面)に必ず通過する日付変更線。この線を越えることで、日付が進んだり、戻ったりと不思議な体験をすることができます。この日付変更線はよく見ると直線ではなくかなりジグザグに折れ曲がり、いびつな形をしています。今回は、日付変更線がいびつな理由(原因となった島々)をご紹介していきます。

そもそも日付変更線とは?

日付変更線(国際日付変更線)は、その名の通り世界各地の標準時のずれによって暦の違いが生じないように取り決められた太平洋上の線です。この線をまたぐことで日付を1日遅らせたり勧めたりすることができます。経度180度に沿って島や陸地を避けて海の上を通るように設定されていますが、実際に海の上に引いてあるわけではなく、人類が頭の中で考えた理論上の線です。

© OpenStreetMap contributors

16世紀にマゼラン一行が西回りで世界一周の航海を達成して出発地のスペインに着いた際に、この日付の矛盾は発覚されました。地球の自転とは逆向きに世界を1周したことにより、彼らがみた日の出の回数は出発の地のスペインで見た回数より1回少ないことに疑問が生じました。時差は15度進むことに1時間生まれ、1周すると24時間の差が生まれてしまいます。

Wikipediaより

このことに気づいたマゼラン一行は1日分の誤差を修正するために、基準となる線を設けました。この基準線は、人が住んでいるところに引いてしまうと、同じ国の中に二つの日付の地域ができてしまい不便なため、一番陸地の少ない太平洋の真ん中に設定されました。

現在、この線はどこかの国際機関が設定しているわけではなく、日付変更線に近い経度180度付近の国々が、その国の裁量で自由に設定したり、変更したりしています。そのため、その国の政治的判断で日付変更線は容易に変更され、その結果が現在のいびつな日付変更線の形へと繋がったのです。

そして、この日付変更線の折れ曲がった地域を拡大していくと、そこには時を歪める原因となった島が存在していることがわかります。今回は日付変更線がジグザグな理由いびつな原因となった島々5選を紹介してきたいと思います。

© OpenStreetMap contributors

ダイオミード諸島

日付変更線がまず最初に大きくカーブするのが、ユーラシア大陸と北アメリカ大陸の間のベーリング海峡です。経度180度線が思いっきりロシアの陸地を通過しているため、アラスカと極東ロシアの間にあるベーリング海峡に線が引かれること自体は至極自然なことと言えます。

アラスカと極東ロシアの間に広がるベーリング海 wikipediaより

しかし、この海峡を拡大していくと、ちょうど中間地点にダイオミード諸島と呼ばれる双子島が存在し、両島の間をすり抜けて線が引かれていることがわかります。この海峡にはここ以外に島は存在しないにも関わらず、敢えてこの中間に線を引く理由は何なのでしょう?

ダイオミード諸島の双子島 西がラトノマフ島、東がリトルダイオミード島 wikipediaより

答えは、この諸島の中間に両国の国境が引かれているからです。西に位置するラトノマフ島(ビッグダイオミード島)ロシア領、東に位置するリトルダイオミード島アメリカ領です。国によって標準時は異なるため、それぞれの島もその国の標準時(ロシア:カムチャッカ時間、アメリカ:アラスカ時間)が適用されます。

結果、両島の中間に日付変更線が引かれ、両島の時差は21時間差(実際は23時間差)まで広がりました。この異例の事態に、2つの島は「昨日島」「明日島」と表現されるようになりました。

© OpenStreetMap contributors

両島の距離はたった3.8kmしかなく、冬は島周辺の海が凍る為、物理的に歩いて渡ることができます(ただし、禁止されている)。ちなみに、アメリカ側のリトルダイオミード島にのみ人が定住しており、ロシア側のラトノマフ島は国境軍と気象観測所要員が駐留するのみとなっています。

リトルダイオミード唯一の村落 Wikipediaより

アリューシャン列島

アメリカ最後の秘境と呼ばれるアラスカ、そのさらに果ての地でもあるアリューシャン列島はロシアのカムチャッカ半島にまでかけて約1930kmも延びる非常に長い列島です(日本列島よりも長い)。

アリューシャン列島 wikipediaより

日付変更線がベーリング海峡からアリューシャン列島に向けて南下する際、経度180度よりさらに西に一度侵入した形をとって線が延びています。本来アリューシャン列島内の180度経線は海であるため、そのまま直線を引けばいいのに、少しそれた位置で、しかも結局アリューシャン列島を中途半端にぶった切る形で日付変更線が伸びています。

© OpenStreetMap contributors

この理由もダイオミード諸島と同じく、ここがロシアとアメリカの国境だからです。アリューシャン列島には大きく6つの諸島が存在しますが、実は西端の1つだけはロシア領なのです。ニア諸島西端のアッツ島コマンドルスキー諸島東端のメードヌイ島の間に日付変更線があり、両諸島の時差は22時間となっています。

 アッツ島サムイ島

アリューシャン列島にあるアッツ島はその名前から暑そうな環境を連想させられますが、北極に近いベーリング海にあるので非常に寒いです。

一方、タイにはサムイ島という極寒の環境を連想する島がありますが、実際は赤道近くの熱帯に位置する非常に暑い島です。

この日本語ならではのおかしさから一部の界隈では有名な島となっています。

上陸禁止のアッツ島 wikipediaより
バカンス先として人気のサムイ島 wikipediaより

キリバス

赤道付近で日付変更線はこれまでと比にならない大きなジグザグを形成します。ここにはキリバス共和国と呼ばれる島国があります。世界地図で見ると海しか見えませんが、人口12万足らずのキリバスは33の環礁から成り、それらの島々が350万㎢に渡って散らばっています。その広さは実に東西3200kmにも渡り、世界第3位の排他的経済水域を誇ります。

国際機関太平洋諸島センターHPより引用

キリバスは経度180度付近で東西に長く伸びる国のため、日付変更線自体は「人の住んでいない海上」に設定されていましたが、国を分断する形となっていました。1つの国の中で島によって日付が異なるのはあまりに不便なので、1995年に日付変更線を修正して全て西側に含めるようになりました。この結果、キリバスは「地球上で最も早く1日を迎える国」となりました。この国はハワイと同じ標準時を採用しているにも関わらず、日にちはハワイより1日早くなっています。

現在、キリバスの東端こそ「世界で一番東の場所」であり、そこに位置するのがライン諸島に属するカロリン島(ミレニアム島)と呼ばれる無人島です。ここは自分で船をチャーターしないと辿り着くことができないマイナースポットのため、旅行者の間で人気なのは同諸島のクリスマス島です。

クリスマス島 wikipediaより

クリスマス島はキリバス屈指の観光地で、「世界で一番大きなサンゴ礁の島」として知られています。この島には、「ロンドン」「パリ」「ポーランド」「バナナ」といった笑える地名がたくさん存在します。一方、名産である天然塩は日本でも人気で、カルビーのポテトチップスの味として発売されたこともあります。

世界最西端の地

キルギスが世界最東端の地いうことは、逆に言うと世界最西端の地もすぐ近くに存在することになります。

アメリカ合衆国の海外領土であるベーカー島は、クリスマス島から“西”へ約2130kmのところに位置する無人島で、「地球上で1日が始まるのが最も遅い場所」と言えます。

ベーカー島 wikipediaより

サモア

次にご紹介するのはキリバスのすぐ南にあるボコッとした形の部分です。ここには21世紀に入ってから日付変更線を変更した「サモア」があります。サモアを知るにあたって注意すべき点は「サモア独立国」「アメリカ領サモア」が存在することです。サモア諸島と呼ばれる1つの諸島に2つの国が混在しているのです。

© OpenStreetMap contributors

両地域はかつて独米英の3ヶ国で管理され、サモア諸島の西側をドイツに、東側をアメリカに統治されていました。これ以降、サモア諸島は東西に分裂した歴史を歩んでいきます。1962年にドイツ側(西側)から西サモア(現:サモア独立国)として独立する一方、アメリカ側(東側)は現在に至るまでアメリカ領のままです。

サモア諸島はアメリカとの結びつきが強いことから、貿易の都合上、かつて日付変更線を西側から東側に変更した過去があります。しかし、独立後のサモア独立国ニュージーランドとの貿易が盛んになったため、2011年に現在の貿易の不便性を解決するため、再度西側に戻しました。一方、アメリカ領サモアはアメリカの標準時を採用しているため、諸島の間に日付変更線を引くに至ったのです。

サモア wikipediaより 

チャタム諸島

最後の折れ線が存在するのは、ニュージーランドに属するチャタム諸島です。ニュージーランド本土から東に約700kmも離れたこの群島は、11の島から成り立ち、人口は約650人です。千葉県のような形をしたチャタム島と2番目に大きいピット島の2島のみが有人島となります。この諸島は経度180度線より東に位置しますが、ニュージーランド領のため、日付変更線が曲げられています。

千葉県の形をしたチャタム島と右下のピット島 Wikipediaより

世界で一番早く1日を迎えるのはキリバスのライン諸島ですが、初日の出に関して世界で一番早く見られる(人が居住している)場所「チャタム諸島(のピット島)」と言えます。経度上キリバスのライン諸島が最も東に位置しますが、初日の出は南東にいくほど早くなります(事実、日本でも、最も東に位置する納沙布岬より、千葉県の犬吠埼の方が初日の出の時間は早い)。

© OpenStreetMap contributors

2020年チャタム諸島は、世界で唯一(?)観光客が宿泊施設に収容しきれないほど殺到している場所として注目されました。本来、通常のニュージーランド人は、ニュージーランド本土から遠く離れたこの諸島までわざわざ足を運ぶことはしません。しかし、コロナウイルスのパンデミックによって同国の国境は閉鎖され、海外旅行は控えるように勧告されました。旅に飢えたニュージーランド人が目指したのが、国内の遠く離れた「島」で、本土から遠く離れていることが逆に強みとなりました。国内旅行への転換がチャタム諸島を一躍人気の旅行先に押し上げたのです。

チャタム諸島の牧歌的な風景 wikipediaより

おわりに

これまでに日付変更線がいびつな原因となる島々を見てきました。日付変更線がいびつな理由は、①島が2ヵ国の国境である②自国の一部が経度180度線を越えている、ためでした。また、戦略的に日付変更線を変更している国もあり、キリバスやサモア独立国は「貿易」「観光」の観点から平成以降に変更を行いました。

先述した通り、この日付変更線はどこか国際機関が選定しているわけでなく、180度経線周辺国の都合で自由に設定したり、変更したりできます。アメリカやロシアなどの大国に振り回されてジグザグになった日付変更線は、今後も世界情勢が変わるたびに変化し続けるかもしれません。

にほんブログ村 歴史ブログ 地理へにほんブログ村 その他生活ブログ 雑学・豆知識へにほんブログ村 旅行ブログへ

↑よろしければ応援クリックお願いします

コメント

タイトルとURLをコピーしました