日本の謎地域の代名詞「奈良県南部」を考察

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1~2年に1度、いわゆるまとめサイトで「日本三大謎地域」というスレッドを見かけます。当然そんなものは公式にあるわけでもなく、各々の考える「謎地域」があって然るべきなのですが、いつも必ずと言っていいほど真っ先に挙げられる地域があります。それが「奈良県南部」です。

「紀伊半島内陸部」と表現されることもありますが、いわば「日本における謎地域の代名詞」とも呼べる地域です。単純に人のいない秘境という意味合いでは他にも有力候補はたくさんありますが、どうして奈良県南部はこれほどまでに謎地域界の先頭を走っているのでしょう。

曲がりなりにも多くの人々に「謎地域」と認定されるこの地域にはどのような特徴があるのか、少し考察してみたいと思います。

奈良県南部とはそもそもどんなところ?

奈良県といえば、一般的には法隆寺や東大寺、春日大社に代表される文化の都を思い浮かべます。しかし、南部は一転して、自然豊かな紀伊山地の核心部と言える地域です。その自然環境は苛酷と表現しても良いほどで、暮らしている人々の数は極端に少なく、まさに秘境と言えます。

奈良県HPより参照

その南部地域を代表する十津川村は、奈良県の最南端に位置し、日本一大きな村として知られています。十津川村には、(生活用として)日本一長い吊り橋である「谷瀬の吊り橋」や世界遺産熊野古道の「小辺路」、温泉郷があったりと観光要素は決して少なくありません。

谷瀬の吊り橋
熊野古道「小辺路」果無集落

その一方で、村の97%が森林で占められており、酷道や険道と表現される狭くてカーブ傾斜のきつい道が連続していたり、関西圏に位置しているにも関わらずアクセスの困難さから関西弁が浸透しておらず標準語が使われていたりします。十津川村を含む奈良県南部地域は、日本一可住地面積(人が住める地域)が少ないエリアで、その人口の余りの少なさに、奈良県の選挙区は異常な区割りとなっています。

奈良県HPより参照

奈良県南部が謎地域である理由

奈良県南部は秘境故に、知られておらず「謎地域」と言ってしまえばそれまでなのですが、この地域が多くの人にとって謎である最大の理由は、多くの人が思い描く奈良県の地図が現実と大きく乖離しているためと考えます。つまり、「人々が思い描く奈良県の北部・南部観が極端に狭い」ということです。

上記の画像は一時話題になった奈良県の地図ですが、正直かなり的を得た地図だと思っています。一般的な奈良のイメージである古都奈良の要素が存分に詰め込まれたのが地図の北部南部です。

知名度の高い奈良市大和郡山市天理市などは全て北部に、橿原市明日香村が南部に位置します。これらの地域は奈良盆地と呼ばれる平地にあり、JRや近鉄などの線路網が張り巡らされています。

?地域の北端にある吉野町は、県全体で見ても中央部に位置するにも関わらず、とりわけ県外観光客にとって奈良県の“かなり南”というイメージを持たれています。しかし、こう思われるのはある意味当然で、このことは奈良県の路線図を見ると理解できます。

上記の地図は共に奈良県の路線図を示しています。右の地図を見ると一目瞭然ですが、奈良県は県の北西部の小さいエリアにしか電車が延びておらず、その南の終点は吉野町です。

一方、左の地図はかつて奈良県の公式HPが紹介していた奈良県の路線図です。信じられないことに、吉野町が奈良県の最南端であるかのような表現をしています。この地図は流石にオーバー過ぎますが、今でも観光雑誌を見ると吉野町は奈良観光の南の端であるかのように地図が作成されています。

つまり、インフラとメディアの影響で吉野町=かなり南という間違ったイメージが一定数の人々に定着してしまいました。

さらに追い打ちをかけるように地図問題をわかりにくしているのが「町と郡の誤解です。

奈良県南部は吉野地域と呼ばれており、そのほとんどの自治体が吉野郡に属しています。吉野町も吉野郡に属しており、「吉野郡=南部」が正しいために「吉野町=南部」という少しずれた解釈が定着してしまいました(繰り返しますが、吉野町自体は県全体で見ると中央部に位置します)。

こうした「吉野町=奈良の南」という二重の念押しの結果、多くの人々にとって奈良県という枠組みは奈良盆地内で終わりを迎え、さらに南のエリアはモザイクがかかったように未知の世界となったのではないでしょうか。

まとめ

奈良県南部は、①多くの人々が認識している奈良県の範囲が狭い上に、②郡と町の名前のややこしさが重なったことが原因で、「謎地域」として認識されるようになったのではないかと推測いたしました。

では、奈良南部こそが「謎地域の代名詞」である理由は何かというと、筆者はシンプルに「都市圏に近いから」と考えます。

「謎地域の代表」として認識されるには、それだけ多くの人に対象地域が「何があるか知らないけど、存在は認知している」という状態である必要があります。認知すらされないと、謎(疑問)は生じません。つまり、田舎過ぎるとそもそも知っている(興味のある)人口が少なく、謎地域になりにくいのです。実際に、他の謎地域候補としてよく挙げられるのは「千葉県南部」「兵庫県北部」「和歌山県東部」といったように、人の多い地域の近くです。

奈良県は世界有数の大都市圏に属しており、北部は毎日のように大阪へ行き交う人で溢れています。それにも関わらず、南に一時間ほど下るだけで別世界へと変貌します。

多くの人が暮らす都市圏において、ここまで経済格差をこじらせたエリアは、同じく大都市圏である東京・名古屋といえどなかなか見つかりません。国内第2の都市大阪と経済圏を共にする奈良県の認知度は遠く離れた地方県よりよっぽど高いはずです。

より多くの人にとって、かろうじて視界に入る「秘境」であることが、奈良南部を「謎地域の代名詞」にまで昇華させたのではないかと考えます。

今回の推察はすべて私の独断と偏見によるものなので、話半分ぐらいで読んでいただければ幸いです。

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