「世界一美しい船旅」と表現されるノルウェーの沿岸急行船。正式名称は「フッティルーテン」と呼ばれ、ノルウェー第2の都市ベルゲンから国境の町キルケネスまでの南北2,400kmをほぼ毎日運航し続けています。フィヨルドの絶景を満喫する観光船として、沿岸住民の生活インフラとしてノルウェーの人々にとって無くてはならない存在です。
全く異なる景観や文化、フィヨルドやオーロラといった自然美を堪能できる沿岸急行船の寄港地は大小合わせて36にも及びます。今回は、そんな魅力あふれる港町を全てご紹介していきます。(町の数が非常に多いので、独断で3段階にランク付けしていますので、ご参考ください。)
この記事のオススメポイント
●沿岸急行船の訪れる街を知ることができる
●ノルウェーの観光名所を知ることができる
●ノルウェーの絶景写真を見ることができる
●ノルウェーにある8個の世界遺産を北上しながら全て知ることができる
ヴェストラン県
沿岸急行船の南の始発港であるベルゲンを擁するヴェストラン県には、3つの寄港地があります。ノルウェー南西部に位置し、国内で3番目の人口規模を誇ります。大きく長いフィヨルドがたくさんあり、それを囲む急な山々が海岸線まで迫っていることから、高い山と深いフィヨルドの景観を楽しむことができます。
最大の見どころはベルゲンを出航してすぐにお目にかかれるソグネフィヨルドです。ノルウェー最大(世界で2番目に大きい)のフィヨルドで、近郊の都市からのアクセスも便利な上、山岳鉄道・フロム鉄道など観光インフラも充実しているため、多くの観光客が訪れるエリアです。
ベルゲン【☆☆☆】
旅のはじまりの地であるベルゲンは首都オスロに続くノルウェー第2の都市として知られています。かつては首都であり、ハンザ同盟都市でもあり、19世紀までは北欧最大の街として栄えました。
国内最大の港湾都市でもあり、海洋ビジネスの中心地として認めらています。北海漁業、魚介類の養殖、海洋研究所などが盛んです。海洋石油・天然ガス産業の中心でもあり、ここから多くの国にパイプラインなどを通して輸出しています。観光分野も盛んで、世界的にも有名なフィヨルド観光の玄関口として、非常に多くのクルーズ船が寄港します。
ノルウェー世界遺産シリーズ①
ブリッゲン地区
ハンザ同盟の4大拠点として栄えたベルゲン、その港に面して隙間なく立ち並ぶ三角屋根のカラフルな木造倉庫群は、中世ノルウェー建築の代表例として文化遺産に登録されました。ブリッゲンはノルウェー語で「追悼」を意味します。
フローロ【☆--】
ベルゲンを出港して1番最初にたどり着く町がフローロです。ここは北欧諸国(スカンジナビア半島)の最西端に位置する町で、この町が属すキン市の行政の中心地です。町はボトナフィヨルルドとソルハイムフィヨルドの間にある島に造られています。町の経済は漁業(ニシン)、造船業、石油産業の供給拠点の3本柱で支えられています。
モーロイ【☆--】
モーロイはノルウェーで最も重要な漁港の1つで、ボクセイ島と本土の間のウルヴェスンド海峡にある小さな島です。この町は貿易拠点として戦力的に配置された町で、国内有数のサバの水揚げ産地です。第二次世界大戦中はドイツの沿岸要塞として機能していましが、戦争の末元の建物は全て破壊された悲惨な歴史を持ちます。
ノルウェー世界遺産シリーズ②
ウルネスの木造教会
ルストラフィヨルドの崖の上に凛として立つ、非常に美しい木造の教会です。ヴァイキング伝統の造船技術を応用して作られており、釘を一切使わず全て木材を組んで造られています。ノルウェー最初の世界遺産です。
ムーレ・オ・ロムスダール県
沿岸急行線の航路の2番目の県にあたるのがムーレ・オ・ロムスダール県です。ここは早くも「沿岸急行線 観光のハイライト」とも呼べるエリアで、全部で6つの寄港地があります。世界自然遺産にも登録されているガイランゲルフィヨルドに代表されるノルウェーの大自然がギュッと凝縮されています。
沿岸急行線にとっても特別な場所で、古くから地形的特徴ゆえ、海沿いの島に人口の多くを抱えており、生活の多くを海上交通に依存しています。そのため、各島に築かれた街並みは文化的にも価値を有しており、自然と文化の両方を存分に楽しめるエリアとなっています。
トルヴィーク【☆--】
トルヴィークはヘロイ市にあるレイノヤ島の小さな村です。市の由来は「小さな島々の群島」から来ており、非常に多くの島が点在しています。トルヴィークはオフショア事業と海運が主要な産業となっています。隣接するルンデ島は、過去に6万枚の金銀の硬貨を運ぶオランダ船がここで沈没したことから「トレジャーアイランド」と呼ばれています。
オーレスン【☆☆☆】
オーレスンはガイランゲルフィヨルドをはじめとしたフィヨルド郡観光の最前線です。沿岸急行線が毎日停泊し、多くの観光客がフィヨルド観光のためにフェリーやバスに乗り換える中継地として機能しています。人口も県内最大の5万人近くが暮らしており、国際空港も郊外にあるため、まさにノルウェー観光の一大拠点と言えます。
自然の観光資源を多く抱える一方、この街はユーゲント・シュティール(アール・ヌーヴォー)建築が際立っており、丸みの帯びた塔、曲がりくねった線形の街並みがオーレスンのもう一つの観光資源となっています。
また、この町は「ノルウェー水産業の首都」とも呼ばれており、タラ、ニシン、カニの水揚げが多く、特に乾燥タラの最大の輸出港でもあります。北海油田開発に伴い石油産業向けの造船と家具製造業も盛んです。
ガイランゲル【☆☆☆】
ガイランゲルは名前の通り、ガイランゲルフィヨルドの中心部にある観光村で「フィヨルドの真珠」と称されています。ガイランゲルフィヨルドは、世界で最も壮観な風景の一つとして、北欧で最も人気の観光地の一つです。人気のスポットとして、「7姉妹(セブンシスターズ)」と「求婚者」と呼ばれ呼ばれる巨大な2つの滝がお互いに対岸に流れるスポット郡があり、さまざまな滝の美しさや豪快さを楽しむこともできます。【運航夏季限定】
ノルウェー世界遺産シリーズ③
西ノルウェーフィヨルド群-ガイランゲルフィヨルドとネーロイフィヨルド
ノルウェーの西海岸に約500km続くフィヨルド地帯のうちの2つのフィヨルド。地球上で最も美しい典型的な形のフィヨルドとして、自然美と地形的特性が評価され、自然遺産に登録されました。
ウルケ【☆--】
夏の終わり限定で沿岸急行線はヨールンフィヨルド内にあるウルケにも寄港します。とても狭いフィヨルドで、サンモアアルプスの海岸沿いにある小さな村です。羊と数件の民家だけで何かがあるわけはありませんが、名物のラム肉のハムと雄大な自然の中でトレッキングを楽しむことができます。【運航9・10月限定】
モルデ【☆☆☆】
県庁所在地でもあるモルデは「バラの街」の愛称で呼ばれています。夏は涼しく、冬は比較的穏やかな海洋性気候のため、緑豊かで多くのバラ園が存在します。トロールスティーゲンと呼ばれるノルウェー1人気の観光道路を抱えており、山はヨーロッパ最大の垂直な岩山です。ここにあるモルデフォールはヨーロッパ1高い滝(世界で4番目に高い滝)で全高は655mもあります。
モルデはかつては繊維産業の中心地でしたが、現在は文化の中心地でもあります。ノルウェー最大の民族博物館、巨大な図書館、水産博物館などが点在しています。ヨーロッパ最大かつ最古のジャズフェスティバルの一つであるモルデジャズフェスティバルが毎年7月に開催されており、1週間の祭り期間に、10万人近くの訪問者が訪れます。
クリスチャンスン【☆☆-】
クリスチャンスンは、4つの主島と多数の小島の上に築かれた街です。最大の島を除く、比較的小さい3つの島に都市部が集中しており、ノルウェーで最も人口密度が高い都市と言われています。北西部のグリップ群島は、今は廃村ですが独特の建築様式と地勢のために人気の観光地となっています。
「バカラオ(タラの干物)の本拠地」という異名を持ち、四句節中に大量に輸出されています。近年は、ノルウェー沖で採掘される石油・天然ガスの拠点として注目を集めています。ロイヤル・ダッチ・シェルやエクイノール(北欧最大のエネルギー企業)といった石油メジャーが事務所を置き、ハルテンバンク(世界で最北に位置する海底油田)の掘削施設の維持管理を行っています。
トロンデラーグ県
沿岸急行線で訪れる3つ目の県は、ノルウェー中部に位置するトロンデラーグ県です。ここでは2つの寄港地に寄ります。ノルウェーで最も肥沃な土地で農業生産が盛んな一方、国内最大の養殖とサケの産地でもあり漁業も強く、ノルウェーの第一次産業の心臓部と言えます。
このエリアには何千年も前から人類が住んでいたと考えられており、ヴァイキング時代にも重要な基地となりました。県庁所在地のトロンハイムはノルウェー王国最初の首都でもあり、歴史的な文化財が多く点在します。
トロンハイム【☆☆☆】
トロンハイムはオスロ、ベルゲンに次ぐノルウェー第3の都市です。同時に、997年にヴァイキングによって切り開かれたノルウェー王国最初の首都でした(当時の名はニーダロス)。街はフィヨルドの中にあり、交易拠点として栄華を誇りました。カトリック大司教の本拠地でもあったことから中世は北欧随一の巡礼地として栄え、現在街の中心にあるニーダロス大聖堂がトロンハイムのシンボルと言えます。
現在トロンハイムは、国立大学やハイテク産業の研究所が集まる学術都市としての側面を強く持っています。人口の5分の1を学生が占めており、ノルウェー最大の大学であるノルウェー科学技術大学(NTNU)には、約36000人の学生が在籍しています(街の人口は約17万人)。そのため、活気があり治安も良く、住み心地の良い街として人気です。世界最北のトラム(路面電車)もここに存在しています。
トロンハイムは地図で見るとオスロから近い印象がありますが、実際の距離は500キロで、実に東京~札幌間くらいの距離があります。日本より大きい国土に、険しい地形、人口密度の低さといった要因から、ノルウェーは欧州で一人当たりの航空旅行が最も多い国です。国内線のトロンハイムーオスロ間はヨーロッパで最も混雑する航路の1つで、年間200万人もの乗客がいます。
レールヴィク【☆--】
レールヴィクは、約6000の島からなるヴィクナ諸島にある中央ノルウェー最大の港湾都市です。毎年15000を越える船やクルーズ船が寄港しており、沿岸急行線の北行ときと南行の船も夕方にここで合流します。この街のシンボルが、沿岸文化と船舶保護のために設立されたノルウェー沿岸博物館です。
ノルウェーの世界遺産シリーズ④
レーロースの鉱山街とその周辺
銅鉱山の街であるレーロースは17世紀に発見されて以来20世紀後半まで採掘が続けれました。鉱山で働く労働者によって築かれた木材住宅や農場、製錬所、輸送路といった文化的景観が評価され、文化遺産に登録されました。
ヌールラン県(南部)
沿岸急行船が訪れる4つ目の県であるヌールラン県はいよいよ北極圏へと突入します。非常に入り組んだ海岸線を持ち、多くのフィヨルドが存在します。海の近くまで険しい山が広がり、その隙間を縫うように平坦な低地が続いており、そこに町や村が築かれています。
北端から南端まで約800kmの広大な距離のあるヌールラン県はデンマークの全面積に匹敵する国内第2の面積を抱え、伝統的に北大西洋条約機構(NATO)の要衝とされてきました。その一方、観光業が経済の大きな柱となっています。
ヌールラン県には実に10の沿岸急行線の寄港地があります。南~中央部で5つあり、こちらは本土に沿いながら進みます。この辺りは、世界遺産の群島や国内最大級の氷河が存在し、変化に富んだ海岸風景を目当てに多くのクルーズ船がやってきます。
(沿岸急行線は通りませんが、ヌールラン県にあるナルヴィクは高校地理の試験に頻出の都市です。)
ブレンネイスン【☆☆-】
ブレンネイスンは本土の狭い半島にある人口5000人くらいの町です。周囲を島々に囲まれており、狭いながらも戦略的に築かれた港を中心に、あらゆる貿易と漁業に対応しています。近くの島にあるヴァイキング時代伝説の山と呼ばれたトルガッテンは、山を貫く特徴的な穴があることで有名です。
サンネスショーエン【☆☆-】
雄大なセブンシスターズ山脈を背に立地するサンネスショーエンは、周囲に数々の島を抱えており、この地域のハブ拠点として機能しています。フェリー交通量も多く、飛行機も運航しているため、活気にあふれています。この街の近くには、世界遺産に登録されているヴェガ群島があります。
ノルウェー世界遺産シリーズ⑤
ヴェガオヤン‐ヴェガ群島
北極圏のすぐ南に位置する6500もの小さな島々で、現在も島の数は増え続けています。ホウケワタガモと呼ばれる渡り鳥の産卵コロニーであるため、カモが巣立った後に残された羽毛は世界最高級のダウンの原料として使用されており、「羽毛の宝石」と呼ばれています。
ネスナ【☆--】
3つの島と本土から伸びた半島で交差精されるネスナは風光明媚な小さな村です。1日2回、船は到着しますが、残念ながら散策できるほど長くは停泊しません。しかし、デッキからは、地元の人々の乗船や下船、郵便や荷物の積み下ろしなど、海岸沿いの日常生活の一端を見ることができます。
オルネス【☆☆-】
ここから北極圏に突入します。オルネスはヌールラン県の中央に位置する村です。近郊にはノルウェーで2番目に大きい氷河であるスヴァルティセン氷河を抱えています。ノルウェーは国内の電力生産量の95%を水力発電で賄っており、この氷河から集められた水も水力発電に使用されています。
ボーデ【☆☆☆】
ヌールラン県の県庁所在地であるボーデは、北ノルウェーで2番目に大きい都市です。北極圏の限界線となる北極線(北緯66度33分線)のちょうど北側に位置し、約1ヶ月間白夜となります。船舶、航空、鉄道全ての交通機関において、北ノルウェーの重要拠点となり、とりわけロフォーテン諸島へのフェリーでの玄関口にあたります。
ボーデ駅はノルウェー国鉄最北端の駅で、これより北はバスでのみのアクセスとなります(ただし、さらに北のナルヴィクにも私鉄がとおっているが、行先はスウェーデンでノルウェー国内に接続しない)。
また、ボーデは空軍基地として長い歴史を持っており、かつて冷戦時は対ソ連の中心基地として機能していました。現在も北大西洋条約機構(NATO)の主要航空基地であり、冬季には戦闘機が定期的に演習します。
都市の特徴として、ノルウェー海に突き出した半島の上にあるため、国内随一の強風の吹く都市として知られています。市内には17の自然保護区が存在するため、特にハイカーの間で人気の町です。また、市の南東にはソルトストローメンと呼ばれる「世界一強い潮流」を持つ海峡が存在します。
ヌールラン県(北部)
ヌールラン県の北部に入ると沿岸急行線は本土を通らず、2つの諸島(計5寄港地)を巡ります。
最初に訪れるロフォーテン諸島は世界的な知名度を誇る有名観光地・漁業地です。フィヨルドが水没してできた地形から「アルプスを海に沈めたよう」と表現されるほどに風光明媚な景観が続きます。近年は「アナと雪の女王」の舞台となったことで注目されています。メキシコ湾流(暖流)の影響で北極圏に位置しながらも温暖な気候であり、四季がはっきりしていることから夏も冬も観光客が訪れています。
一方、ロフォーテン諸島はタラとニシンの世界的漁業基地としても有名で、干ダラ=ロフォーテン諸島と言っても過言ではないほどです。その後に訪れるベステローデン諸島は知名度こそ落ちますがロフォーテン諸島と似たような特徴を持っており、沿岸急行線発祥の地であります。
スタムスンド【☆--】
ロフォーテン諸島で最初に到着するスタムスンドは小さな漁村で、諸島内で最大のトロール漁業(底引網漁業)の拠点です。観光地としても人気で、スタムスンドは島にありながらも山に囲まれているため、夏はハイキング、冬はスキーが盛んです。加えて、国内有数の釣りスポットでもあるため、陸と海両方のアクティビティを楽しむことができます。
スボルベル【☆☆☆】
スボルベルはロフォーテン諸島の真ん中に位置し、諸島内の交通ハブ拠点となっています。この町はロフォーテン諸島最大の経済的基盤である「世界最大規模のタラ漁」の中心拠点で、その漁獲高は数百万クローネにも達します。
その一方、北ノルウェー随一の芸術の町とも言われており、町の至るところギャラリーが点在し、美術館も存在します。近郊にある「スヴォルベアゲイタ山」は、ロフォーテン諸島のシンボル的存在として世界中のクライマーを魅了しています。
ストクマークネス【☆☆☆】
沿岸急行線(フッティルーテン)はベステローデン諸島の小さな村であるストクマークネスで生まれました。創設者のリチャード・ウィズがこの先にあるハンメルフェストとトロンハイムを結ぶ海の道を築いたことがこの会社のはじまりでした。現在、本社はトロムソにありますが、その栄誉を称え、この村にはフッティルーテン博物館が設立されました。等身大の船が飾られた近代的な美術館で、フッティルーテンの100年にも及ぶ歴史を知ることができます。
ソートラン【☆☆☆】
ベステローデン諸島最大の町であるソートランは人口1万人を越え、北ノルウェーで未だに毎年人口が増え続けている数少ない町の1つです。この町は「青の街」として知られており、多くの家々が青く塗られています。これは、町の千周年をきっかけに、地元アーティスト・一般人を巻き込んで「町の青色化計画」が実施された面白い経緯があります。
また、ソートランドとベステローデン諸島は、世界有数のオーロラスポットとして有名で、ここで撮影された写真はナショナルジオグラフィック誌にも掲載されています。
リゾイハム【☆--】
リゾイハムは島と島を結ぶ海峡のほとりにある村で、マッコウクジラのホエールウォッチングが大きな観光資源となっています。この地域には、巨大な泥炭湿地や石炭鉱床が存在し、1億5000万年前の魚竜の化石が発見されています。こうした恵まれた堆積物から「開かれた地質図鑑」と呼ばれています。
トロムス・オ・フィンマルク県(旧トロムス県)
沿岸急行船が最後に訪れるのがトロムス・オ・フィンマルク県。ノルウェー最大の面積を誇るこの県は、トロムス県とフィンマルク県が2020年に合併してできた新しい県です。ノルウェー最北・最東の地に位置し、驚くことにロシアとも接しています。県内全域が北極圏に位置し、先住民のサーミ人も居住しています。
実に15もの寄港地があり、あまりに広大なため、ここでは合併以前のトロムス県という分類でご紹介します。
旧トロムス県は、北部最大都市であるトロムソを筆頭に、北ノルウェーの経済・交通の中心地と言えます。フィヨルドによる入り組んだ海岸線が特徴のノルウェー中でも最上級に入り組んだ地形をした県です。非常に島が多い一方、大きく標高の高い島は外洋に面して並んでいるため、防風・防波の役割を果たしてくれ、内湾は安全に航行できます。
ハーシュタ【☆☆-】
ハーシュタはノルウェー最大の島であるヒンノヤ島にある都市で、北ノルウェー第3の都市です。経済・商業の中心地で、北ノルウェーの石油産業はハーシュタに集中しています。北極圏映画祭の中心地でもあり、大学も擁してることから、質の高い文化イベント多く開催されています。
町のすぐ外には、13世紀まで遡る世界最北端の中世の教会であるトロンデンス教会があります。また、オーロラゾーンのど真ん中に位置するため、晴れた夜はオーロラをよく見ることができます。
フェンスネス【☆☆☆】
フェンスネスは2000年に市に昇格したばかりの新しい都市です。北ノルウェー第1都市のトロムソと第3都市のハーシュタの中間に位置し、両都市を繋ぐ高速ボートの中継拠点となっています(両都市は高速ボートで約1時間)。この立地が幸いし、市は現在も成長中でアパートや映画館、商業ビル、飲食店が建設されています。
対岸に位置するセンジャ島は「ミニチュア版ノルウェー」と表現されており、山やフィヨルド、小さな集落などノルウェーの大自然を凝縮したような場所です。コンパクトに堪能できることから人気です。フェンスネスはセンジヤ島の玄関口としても機能しています。
トロムソ【☆☆☆】
トロムソは北ノルウェー最大の都市であり、北極圏より北で世界で3番目に大きい(ロシアのムルマンスク、ノリリスクに続く)都市でもあります。沿岸急行船(フッティルーテン)の本社もここにあります。トロムソは水産業と学術の街としても知られています。
ノルウェーの水産輸出品のかなりの部分がトロムソから出荷されており、国の水産輸出公社の本部もトロムソに置かれています。トロムソ大学を中心に学生が多いことから、若者文化も盛んで「北のパリ」とも称されています。美術館や水族館、植物園、醸造所、プラネタリウムがあるだけでなく、映画祭や音楽祭、ロックフェスなど各種イベントも開催されています。そして、その多くが「世界最北」を冠しています。
トロムソは鉄道こそありませんが、空路と海路が整備されており、交通アクセスが優れているため、多くの観光客にとって最も手軽な北極圏として人気があります。白夜やオーロラ、犬ぞりといった北極特有の自然を体験することができます。
シェルヴォイ【☆--】
シェルヴォイはトロムス県の北部に位置する典型的なタイプの漁村です。水産物が主な生計手段で、近年は魚の養殖と水産養殖に力を入れています。ここにはトロムス県で最も古い木造の教会があります。
トロムス・オ・フィンマルク県(旧フィンマルク県)
沿岸急行線の終着点があるフィンマルク県。2020年にお隣のトロムス県と合併してトロムス・オ・フィンマルク県となりましたが、この県こそがノルウェー最東端及びヨーロッパ本土の最北端に位置します。広大な県でありながら、その人口はたった72000人と国内最小です。
かつては、オスロから手紙を届けるのに夏は3週間・冬は5ヶ月かかっていました。陸・空の交通インフラも発達していないこの地域に海上インフラを築くために沿岸急行船は生まれました。海岸沿いに町が集中するこの県にとって沿岸急行船の存在は他県と比べものにならないほど重要です。
余談ですが、2020年に合併してできたこの県は、旧フィンマルク県側の住民の実に87%が合併に反対しており、合併後もこの勢いは収まりませんでした。結局議論の末、2021年10月に政府は再度分割することを宣言し、トロムス・オ・フィンマルク県は4年足らずでなくなってしまうようです。
オクスフィヨルド【☆--】
旧フィンマルク県最初の寄港地であるオクスフィヨルドは、いよいよ北緯70度を越え、北極圏に居ることを大きく実感することができます。ここにはオクスフィヨルド氷河と呼ばれる国内で5番目に大きいフィヨルドがあります。オクスフィヨルドは市で唯一本土から道路が整備された村で、ここを起点に海沿いの村にローカル船を出しています。
ノルウェーの世界遺産シリーズ⑥
アルタの岩絵
紀元前42000年から500年頃までに狩猟・漁撈民によって描かれた岩面刻画および岩陰彫刻群です。北極美術の出土例の1つとなっています。
ハンメルフェスト【☆☆☆】
ハンメルフェストは人口5000人以上の規模において世界最北の町として知られています。フィンマルク県西部の商業中心地でもあり、近年その美しい街並みや白夜・極夜を目的とした観光客が増加しています。
ヨーロッパを北極海を抜けて東アジアに達する北極海航路において、ヨーロッパ側最後の不凍港としても知られています。近年、近郊のメルケヤ島に国内最大企業のエクイノールがLNG基地を設置したことにより町はちょっとしたバブル状態になり、2021年に人口は1万人を越えました。
ノルウェーの世界遺産シリーズ⑦
シュトルーヴェ測地弧
18世紀に子午線弧長の三角測量のために設置された三角点群のことで、その距離は2820kmにも及びます。当時設置された265ヶ所に測量点のうち34か所が世界遺産に登録されました。ノルウェーからウクライナまで実に10ヶ国を跨ぐ非常に珍しい世界遺産で、ハンメルフェストはその北端にあたります。
ハヴォイスンド【☆--】
ハヴォイスンドはバレンツ海(北極海のヨーロッパ部)に浮かぶカラフルな小さな漁村です。人口は1000人ほどですが、意外にも幅広い施設が整っています。というのも、この村は沿岸急行船にとって重要な貨物積み込み港であるからです。停泊中に甲板に出て見る慌ただしい積み込み風景こそが最大の観光資源かもしれません。また、北極海の深海漁業拠点とヨーロッパ1の海鳥のコロニーでもあります。
ホニングスヴォーグ【☆☆☆】
ホニングスヴォーグこそ正真正銘のヨーロッパ最北端の町です。人口2500人足らずのため「世界最北端」の称号に関しては世界各地の最北端の都市と係争中でありますが、同国最北端の都市に違いありません。この町、この県最大の見どころは、ヨーロッパ最北の岬であるノールカップです。
ノールカップには、シンボル的存在の「地球儀のモニュメント」、レストラン・カフェ・ギフトショップの入った「ノールカップホール」、博物館・洞窟バー・教会の入った「地下トンネル空間」があり、観光設備が非常に充実しています。そして、最大の見どころは、夏の白夜には沈むことのない太陽を、冬の極夜にはオーロラを眺めることができる点です。世界中の観光客が「世界最北端の地」に憧れて絶え間なく訪れています。
沿岸急行船のキルケネス(北)行の便は必ず昼間の3時間ほど港に停泊するため、市内は観光客でごった返します。最北端に位置しますが、北大西洋海流の影響で、冬は緯度のわりに気候は穏やかで、南端に位置するオスロより暖かいです。
キョレフィヨルド【☆--】
小さなフィヨルドのそばにある人口1000人足らずの小さな漁村であるキョレフフィヨルドは、フィンマルク県最大級の漁獲量を誇ります。夏には、先住民族のサーミ人がこの地域の牧草地にトナカイを移動させており、サーミ文化が色濃く反映されています。住民の3分の2がスノーモービルを所有しており、生活の必需品と言えます。
メハムン【☆☆-】
メハムンも人口800人くらいの小さな漁村です。しかし、非常に元気な村で、いくつかのフェスティバルや生演奏会などが開催されるだけでなく、ナイトクラブやゲストハウスやキャンプ場に至るまで様々な形態の宿泊施設があります。
メハムンの近くにはノールキン岬と呼ばれるヨーロッパ本土最北端の岬があります。ノールカップは島を含めた場合の最北端ですが、大陸の最北端という意味合いではこちらが正しいです。観光インフラが整備されているノールカップと異なり、徒歩のみで片道24kmかかり、少なくとも往復に2日かを要するため、誰もが簡単に訪れられるわけではありません。
ベルレボーグ【☆--】
岩とツンドラだけの不毛な地域に立地するベルレボーグは、樹木が存在しません。そのため、非常に強い風が夏も街を襲います。海も北極海の荒波が押し寄せてくるため、4つの人口防波堤を設置しています。この町にあるベルレボーグ港博物館は、波との格闘をつづった防波堤の歴史と沿岸文化を記録しています。
バツフィヨルド【☆--】
この町も国内漁業の中心地の1つで、かつては捕鯨基地でもありました。町中には、多くの水産加工場、冷凍工場、船舶修理工場などがあります。近くの廃村には、19世紀の木造家屋が多く保存されたものがあり、その廃村が夏限定のバカンス先として活用されています。
ヴァードー【☆☆-】
ノルウェー最東端に位置するヴァードーは、小さな島に形成された人口2000にほどのコミュニティです。驚くべきことにここは、サンクトペテルブルク、キエフ、イスタンブールよりさらに東に位置しています。
町の設立以来、GlobusⅡと呼ばれるレーダー設備が設置されています。これは公式にはスペースデブリ(宇宙ゴミ)の追跡が目的とされています。しかし、ロシア海軍基地に近く、建設段階からアメリカに資金提供を受けていたことからアメリカのミサイル防衛システムの一部としても機能しているのではないかと言われています。現在ではGlobusⅢが建設され、2022年より運用されるようです。
この島はノルウェー初となる海底トンネルを経由して本土と繋がっており、本土側には空港も整備されています。島にまで至る幹線道路のE75号線は、ギリシャのクレタ島からヨーロッパを縦断するようるに伸びており、ヴァードーは北の終点に位置します。
ヴァドソー【☆☆-】
ヴァドソーは旧フィンマルク県の県庁所在地で、合併後の現在も県庁所在地は1つに統一されることなく2つに分かれたままです。政治・行政はトロムソ、県知事はヴァドソーに置かれています。
この町はもともとフィンランドやスウェーデンで飢饉に苦しんだ人々がやってきたことによって成長した過去からフィンランド文化が色濃く残っており、フィンランド語を使う住民も多く居ます。県庁所在地であることから漁業中心の他の町と異なり、第三次産業の比率が高いことが特徴的です。
キルケネス【☆☆☆】
沿岸急行船の終着点にして北の始発点であるキルケネス。毎日船が行き交う一方、オスロやトロムソ行の直行便を有した空港や、各地方都市を結ぶバスターミナルもあり、交通の要衝となります。ロシアとスカンジナビア3国にまたがる広域連合の「バレンツ地方」の事務局もここにあります。
キルケネスは第二次世界大戦中にドイツ軍の基地が置かれ、物資輸送の基地となっていました。そのため、マルタに次いでヨーロッパで最も空襲を受けた町で、現在はその際に使用した防空壕が観光名所となっています。併せて、第二次世界大戦時の歴史や戦闘機を展示した博物館もあります。
一方、キルケネスは自然面においてもノルウェーの他の地域とは異なり、シベリア起源の東洋の要素を多く含んだ植生、生態系を築いています。ここには、氷と雪でできた部屋のホテル「スノーホテル」もあり、多くの観光客を魅了しています。
この町の近くには、ロシア・ノルウェー・フィンランドの3国の国境を接するエヴレ・バスヴィグ国立公園があります。ノルウェーから見てフィンランドは時差が1時間、ロシアは2時間異なるため、この国境点は3つの標準時がひしめくという世界的に見ても大変珍しい場所と言えます。そもそも、キルケネスはフィンランドより東に位置するため、キルケネスからフィンランド入りすると、西へと進んだにも関わらず時差の関係で時計を1時間進ませなければならない現象が発生します。
おわりに
以上、全36寄港地をご紹介してきました。南部は人口規模の大きい都市と観光クルーズ船が連続する一方、北部は小さな町や村の生活のライフラインとして強く機能しており、その傾向は大きく異なります。
冒頭で、沿岸急行船(フッティルーテン)は「世界で最も美しい船旅」と表現しましたが、航路の半分以上が北極圏にあることから「世界最北の定期航路」とも称されます。一国の定期船がこれほどまでに注目されるのは、美しい街並み、フィヨルド、白夜とオーロラといった、世界中にここでしか体験できない観光要素がギュッと凝縮されているためです。
この船旅は臨機応変に日程を調整しながら観光できますので、是非ともこの記事を見て気になった方は、公式HPをご参照ください。ちなみにこの会社は、ノルウェー沿岸部以外にも世界最北の町があるスピッツベルゲン島や北極、南極へのクルーズも行っています。
最後に、沿岸沿い急行船のルート上になく、紹介できていなかったノルウェー最後の世界遺産を紹介して終わらせていただきます。長きにわたりご覧いただき、ありがとうございました。
ノルウェーの世界遺産シリーズ⑧
リューカンとノトデンの産業遺産
20世紀初頭以降にノルスク・ハイドロ社がテレマルク県のリューカンとノトデンの町の周辺に建設した産業施設群とその景観は、20世紀初頭の新しいグローバル産業の好例として、2015年に世界遺産に登録されました。
ノルウェーのその他の記事
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