北アメリカ大陸とグリーンランドの間にはたくさんの諸島があります。このあたりは北極圏に位置することから北極諸島と呼ばれており、島の総数は36,563個にも及びます。そのほとんとがカナダのヌナブト準州とノースウエスト準州に属しています。
一見するとただ単に寒いだけの不毛な島の集合体にも思えますが、実は魅力的な島が密集しています。今回はそんな魅力的な北極諸島の島々をいくつか紹介していきたいと思います。
北極諸島最大の島 バフィン島
バフィン島はカナダ最大の島であると同時に世界で5番目に大きい島です。日本の本州(世界第7位)の約2.23倍、日本の1.34倍の面積を誇る巨大な島です。人口は約1万人とこれまた諸島最大の人口を誇ります。島南部に位置するイカルイトはヌナブト準州の州都であり、島の人口の7割はこの都市に集中しています。
イヌイットが6割を占めるこの街は、トロントやモントリオールからの定期便も出ており、北極冒険の起点と言えます。また、この島にはイカルイトの他に約20のコミュニティが存在しており、これから紹介する他の島のコミュニティが多くても3つしかないことを考えると非常に活発な島と言えます。
険しいフィヨルド、数千メートル級の山々が連なるこの島は、北極諸島の中でもアクセスが容易なことから自然アクティビティの聖地としれ知られています。特に、オーユイタック国立公園にあるトール山は世界最長の垂直斜面として知られており、「北のヨセミテ」とも呼ばれています。
また、犬ぞりに乗ったり、イッカクや白熊を眺めるサファリツアー、はたまた、イヌイットの文化や北極圏の音楽を体感することができる多文化アートフェスティバルなどもバフィン島では行われています。とにもかくにも、「手軽に」「北極文化」を体験するにはこの島を訪れるのがベストかと思われます。
世界一大きい無人島 デヴォン島
デヴォン島はバフィン島の北部に地位する世界一大きい無人島です。その面積は約55,000㎢と世界で27番目に位置します。年間の平均気温はマイナス17度と低く、降水量が少ないため島の大半は砂漠のように乾燥してます。そのため、大型動物はほとんど存在せず、わずかなジャコウウシと小鳥、小動物のみが生息しています。
そんな不毛の大地を求めて多くの科学者や研究者がこの島を訪れています。というのもデヴォン島は地球上で最も火星に近い島と言われているからです。
デヴォン島の地面は一年のほとんどを通して凍り付いていますが、真夏の50日程度は地面が顔を出します。この期間に、NASAのホートン火星プロジェクトの研究者たちが毎年この島を訪れ、将来の火星探査の方法を探っています。極圏での昼夜サイクルや、物資補給にかかる制限、通信制限など、長期の宇宙飛行で乗組員が直面するであろう様々な試練をここで訓練しています。
近年、NASAはデヴォン島で無人火星探査車両ローバーの走行テストを行っております。火星とデヴォン島の風景があまりにも似すぎているため、NASAが発表している火星の写真の多くが実はデヴォン島ではないかと疑惑が浮上しているほどになっています。
世界最北端の有人島 エルズミア島
エルズミア島はバフィン島のさらに北に位置する世界最北の有人島です。面積は196,235㎢と世界で10番目に大きな島です。
エルズミア島には3つの集落が存在するのですが、その中でも最北端に位置するアラートは世界最北端の定住地として知られています。定住地という表現をするのは町として表現できないほど小さなコミュニティだからです。人口は62人ほど、永住者はたった5人ほどです。
アラートは軍事基地のため、暮らしているのは軍事関係者か北極圏の気象・大気を観測する研究者に限られます。そのため、簡単に訪れることはできません。軍事施設のため、空港も擁しており、世界最北端の空港もこちらに存在します。アラート周囲は険しい谷や丘が続いていて、海は一年中氷に追われているため、船舶の通行は厳しく、輸送手段は自ずと空輸に限られてきます。
ちなみに同島にはあと2つのコミュニティが存在しています。観測所として機能しているユリーカと先住民イヌイットが暮らす同島最大(約141人)の町グリースフィヨルドです。
北極研究の聖地 ヴィクトリア島
ヴィクトリア島は北極諸島第2の面積を誇り、世界でも9番目に大きい島です。人口もバフィン島(約1万人)に次ぐ第2位でありますが、その規模は約2,000人と一気に落ちます。この島は、ヌナブト準州とノースウエスト準州の2つに分かれており、ヌナブト準州側に人口の7割が暮らしています。そのほとんどがイヌイットと伝統的な先住民が占めます。
ヌナブト準州に属するケンブリッジベイという町が同島の最大都市(約1600人)です。北西航路を運航する船舶の中継拠点でもあります。この街には、2014年にカナダ極北研究ステーションが設立されており、超高層大気、植物・動物生体、海洋、雪氷、などの研究・観測を行っています。
一方、ノースウエスト準州にあるウルカクトックは人口約400人の町です。伝統的なイヌイットのコミュニティで、狩猟や釣り、版画などで生計を立てています。しかし、近年は、小規模な「探検」クルーズによるいわゆる観光業に対してもポジティブに対応しています。ショッピング、ハイキングだけでなく、世界最北のゴルフコースもあり、意外にも娯楽が充実しています。
ちなみにヴィクトリア島は「人類未踏の”島の中の島の中の島”」が近年発見され、一部界隈で話題となりました。
野生動物で溢れる国立公園 バンクス島
バンクス島はノースウエスト準州に属する有人島で世界第24位(アイルランドほど)の面積を誇ります。人口は約100人ほどで、全員が島南部のサックスハーバーに居住しています。
この島の北部にはオーラビク国立公園があります。この国立公園の見どころの一つに、北米最北の可航河川であるトムスン川があります。クリスタルのような澄んだ川でのラフティングやカヌーをするために観光客が訪れています。公園自体は氷雪砂漠とも言いますか、荒野となっており突風、険しい悪天候に晒されています。しかし、世界最大のジャコウウシの生息地であり、絶滅危惧種であるピアリーカリブーなど険しい雪国に生息する野生動物をたくさん見ることができます。また、公園内には230以上の遺跡があり、紀元前以前の文明跡を辿ることができます。この島はほとんとがオーラビク国立公園のためにあるようなもので、公園内には飛行機の滑走路が4つも存在しています。
北西航路の最深部 キングウィリアム島
北アメリカ大陸の北方を通って大西洋と太平洋を結ぶ航路である北西航路。その一番奥に位置するキングウィリアム島はヌナブト準州に属する人口1000人に満たない有人島です。島唯一の集落はグジョア・ヘイブンです。この島の高さは海抜140メートルほどにすぎず、恐ろしく平坦な大地です。そのため冬には海に氷が張ってしまうと、海と島の境目がよくわかなくなってしまうという現象にあってしまいます。
19世紀イギリスの北極探検家ジョン・フランクリンが率いた探検隊約129名がこの島及び近海で全滅しています。一行が用いた2隻の船が、2014年、2016年と続けて島の沖合の海底から発見されており、美しくも迷宮のように入り組んだ北極諸島の厳しさを実感させてくれます。
まとめ:その他の有人島もまとめて紹介
北極諸島には、これまで紹介した5島の有人島の他にあと2つ有人島があります。サウサンプトン島とコーンウォリス島です。
サウサンプトン島は世界で34番目に大きな島で、人口は約700人ほどです。島の南岸には島唯一の町コーラル・ハーバーがあります。コーンウォリス島は世界で96番目に大きな島で、人口は約200人ほどです。島の南岸には島唯一の町レゾリュートがあります。
まとめに入りましょう。
北極諸島には、約36563の島が存在しています。そのすべてが寒帯に属し、ツンドラです。島のほとんどは無人島であり、人が暮らしている有人島はたった7島になります。その7島全てが興味深い特徴を持っています。島に存在するコミュニティのほとんとが沿岸部にあるイヌイットの集落です。面積が1万㎢を越える島は15島あり、その中の3つの島は世界の大きな島ベスト10に入るほどです(バフィン島、ビクトリア島、エルズミーア島)。観光してみたいとお考えの方は、まずはバフィン島のイカルイトを目指されることをオススメいたします。
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