世界には、国と国、県と県、市と市を分断する様々な境界が存在します。その多くが2か所を分かつ『線』として機能しているのですが、3か所以上になると『点』へと変わります。
日本においても3つの都道府県が1点に集まる「三県境」と呼ばれる場所があり、代表例として群馬県・栃木県・埼玉県の県境が挙げられます。基本的に山や川の中にあることの多い三県境ですが、ここは国内で唯一平地にあることから、アクセスが容易で観光スポットになりつつあります。
3県境は日本に48、3国境は世界に176も存在しており、確かに少ないですが、決して珍しいほどの数ではありません。しかし、これが1つ増えて4になるだけでその数は極端に減ります。例えば、現在4国境は存在せず、4州境も片手で数えられるのみです。さらに小さい市町村単位で見たとしても非常に数は限られています。
そこで、今回は激レアともいえる『4つ以上の境界線が交わる地点』をご紹介していきたいと思います。
アメリカ フォーコーナーズ(4本)
まず最初にご紹介するのは、世界で最も有名な境界線の1つ、アメリカのフォーコーナーズです。アメリカ西部にある、4つの州(コロラド州、ユタ州、ニューメキシコ州、アリゾナ州)の境界線が1点に集まる地点です。
ここにはフォーコーナーズモニュメントと呼ばれる石碑があるだけでなく、近くにモニュメントバレーなどのアメリカ屈指の景勝地が点在するため、観光地化が進んだエリアです。この地域一帯が、ネイティブ・インディアンの領有する土地内であるため、この施設も先住民族(ナバホ族)によって運営されています。
4つの異なる領域が交わる地球上のポイントをクアドリポイントと呼びます。世界中にクアドリポイントは大小30近く存在しますが、このアメリカのフォーコーナーズは「州」という観点から、世界最大規模のクアドリポイントと言えます。
カナダ フォーコーナーズ(4本)
州規模のクアドリポイントは世界にもう一つ存在します。それが、カナダの中部を分断する境界線で、マニトバ州、サスカチュワン州、ノースウエスト準州、ヌナブト準州の4つの州を交差しています。1999年にヌナブト準州の創設とともに誕生した、比較的新しいクアドリポイントです。
ポイント自体は、人里離れたタイガと呼ばれる湿地帯に位置し、カスバ湖とハスバラ湖の間の陸地にあります。鉄道や道路からは数百キロ以上離れており、普通に辿り着くことは不可能ですが、一応カスバレイク空港が存在するため、ポイントに到達することは可能ではありません。
アメリカ オキーチョビー湖(5本)
クアドリポイント(4つの境界線が交わる地点)のさらに上となると、いよいよそのポイントを意味する普通名詞が存在しないほどに少なくなってきます。ラテン数字からの着想をそのままに、敢えてポイント名をつけるとしたらクィーンクェポイントといったところでしょうか。ここから先は、全て市区町村郡単位の境界線となります。
アメリカのフロリダ州に位置するオキーチョビー湖は、国内で4番目に大きな湖(琵琶湖の3倍)です。この湖は非常に広大なことから5つの郡(グレーズ郡、オキーチョビー郡、マーティン郡、パームビーチ郡、ヘンドリー郡)に分割されており、その境界線はちょうど湖の中心で交差します。
オキーチョビー湖は、かつては必ずしも公平に共有されていたわけではありません。1963年までは1つの郡に属していましたが、南フロリダの人口が増えるにつれ、飲料用の淡水の需要も増え、隣接する群からの要求が増え揉めるようになってきました。そこで、フロリダ州が介入し、5つの郡に所有権を分割したことで現在のような形になりました。
日本 羊蹄山(5本)
実はクィーンクェポイントは、日本にも存在します。北海道の富士山とも表現される「羊蹄山」、この山の頂上から5つの市町村境界が放射状に延びているのです。その五市町村はニセコ町、俱知安町、京極町、喜茂別町、真狩村です。
このような分割へ至った経緯を残した資料が残っていないようで、その真偽は不明ですが、いくつか推測はできます。そもそも、直線的な境界線自体が日本では珍しいのですが、北海道は明治以降に開拓された土地のため、町の区画からして直線的なものが多い傾向にあります。
また、北海道の市区町村はその地域の山で分割される傾向が顕著で、実は道内に4市町村境界(クアドリポイント)があと2か所あります。道東地域の藻琴山と氷山峠付近がそれにあたります。
フィンランド クハンクオノ(7本)
お次の境界線の数は7本、ラテン数字風に表現するとセプテムポイントとなります。
フィンランド南西に位置するヴァルシネ県、ここには国内最大の自然湿地であるクルジェンラカ国立公園があります。
この公園最大の見どころこそが、クハンクオノの境界石であり、時計回りに、ノウシアイネン、ミニャマキ、ポイタ、アウラ、トゥルク、ルスコ、マスクの7つの自治体がストーンに接しています。
この石碑の起源は古く、少なくとも14世紀ごろには境界石としての役目を果たしていました。石の名前は「パイクパーチの鼻(北欧に生息する淡水魚)」を意味し、場所の形を表しているとされています。
中世、この地域の教区には「教区の森」と呼ばれる独特の土地所有制度があり、早い話、教区全体で共同所有していました。当時7つの教区で共同所有していたこの森は、1800年代に終了し、それぞれに分割される流れとなったのです。
フィリピン マヨン山(8本)
フィリピンのルソン島南東部にあるアルバイ州、ここにフィリピン一の活火山であるマヨン山があります。このマヨン山、非常に美しい左右対称の成層火山で、地域の観光スポットであり、世界遺産にも認定されています。
この火山の山頂から放射線状に8つの自治体(レガスピ、ダラガ、カマリグ、ギノバタン、リガオ、タバコ、マリリポット、サント ドミンゴ)に分かれ、共同管理されています。大変綺麗な8分割で、この頂上となる点はオクトーポイントと言えます。
イタリア エトナ山(10本)
『世界一境界線の多い地点(デケムポイント)』があるのは、イタリア南部のシチリア島にあるエトナ火山。この火山はシチリア島のシンボルとも呼ベル存在で、ギリシア神話やローマ神話の様々な伝説が残るだけでなく、現在でも活発に活動し続けるヨーロッパ最大の活火山です。
このエトナ山の頂には、世界で最も複雑な地政学的境界があり、実に10の異なる自治体(アドラーノ、ビアンカヴィラ、ベルパッソ、ブロンテ、カスティリオーネ・ディ・シチリア、マレット、ニコロシ、ランダッツォ、サンタ・アルフィオ、ザフェラーナ・エトネア)が合流しています。そのうちの1つであるブロンテに至っては2か所から合流点に接しているため、実際のポイントは不定点と言えます。
どうしてこのような特殊な状況になったかというと、エトナ山の火山活動が非常に活発なためです。数千人が山の斜面とふもとに暮らしていますが、噴火も頻繫に起こっており、山頂周辺は通行も困難です。山の形が変動する可能性が高いため、建物や畑などで土地を区切ることせず、町から最も遠い場所(山頂)に境界を設けたのです。
フィリピンのマヨン山、イタリアのエトナ山から見るように、山岳の中でも火山に分類される山は、資源を独占するより噴火時のリスク分散を重視して境界線が引かれているようです。1つの自治体で管理した際の噴火時の被災額はおよそ想像がつかないため、恩恵を受けるときも被災するときも共同で対処する方がよっぽど効果的なのだという古くからの知恵なのだと推測いたします。
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