スエズ運河は地中海と紅海を結ぶ人工運河で、世界で最も重要な海上要所の1つです。
全長約190キロで、幅22m、深さ8mあります。
これまで約130万隻が通過し、1,359億ドルの巨大な収益を上げています。(2019年時点)。
現在世界の海上輸送の約10%がスエズ運河を通過している言われています。
スエズ運河は、アフリカ大陸を回らずにヨーロッパとアジアを海運で繋ぐ非常に画期的な運河で
従来の経路より10日近くも短縮することができます。
1869年にフランス人のフェルディナン・ド・レセップスがスエズ運河会社を設立し、10年の歳月を経て運河は開通致しました。
地中海と紅海にはほぼ海面差がないことから、閘門(こうもん)を設置する必要もなく、運河の幅も広いため、大型のコンテナ船も多く利用しています。
(パナマ運河は大西洋と太平洋の海面差が大きいため、閘門を設置し、水上エレベータを使用する必要があるため、手間も時間もコストもかかります)
そんなスエズの開通は世界貿易に劇的な変化をもたたし、莫大な恩恵を与えました。
その利権を求め、フランス・イギリス・エジプト及び周辺国がいくどとなく戦争を起こしてきました。
エジプトの財政が破綻し、スエズ運河会社がイギリスに買収され、シナイ半島を舞台にイスラエルのパレスチナ問題も絡んで複雑化した中東戦争時には運河が数年に及び封鎖されたこともありました。
紆余曲折があり、現在のスエズ運河はエジプト政府の統治下にあります。
紅海の入り口に突き出たジブチ共和国はアフリカの角とも呼ばれ、スエズ運河に向かうためのもう一つの要所です。
世界中の多くの国は中東から石油を輸入していますが、その多くはホルムズ海峡を経てタンカーで運ばれていきます。
アジアの場合はマラッカ海峡を、ヨーロッパの場合はアフリカの角を越えてスエズ運河を越える必要があります。
この3つの要所(チョークポイント)を死守するために、イギリス・フランスなど世界中の国々が協力しあっています。(例えば、日本もジブチに自衛隊を派遣したりしています。)
近年はアジアから北アメリカ大陸に向かう船舶もスエズ運河を利用する機会が増えています。
というのも、パナマ運河の通行量の値上げによって、相対的にスエズ運河の通行料が安価になったことが考えられます。
加えて、太平洋を横断する場合、寄港可能な港湾都市が少なく危険も抱えているため、港湾都市も多く点在するスエズ運河は安心です。
大ピッチで複線化工事も勧められたり、スエズ運河の重要性はこれからも増していくことでしょう。
そんなスエズ運河で現在、世界中の海上貿易が混乱に陥る事態が発生しています。
巨大コンテナ船が座礁し、船舶の往来を妨げています。(2021年3月末時点)
ここが封鎖されるとアフリカ周遊の喜望峰ルートを余儀なくされ、大幅に時間がかかってしまいます。
数日間経っても座礁は解決せず、現在この運河周辺で待機している船の数は276隻までに登ります。
スエズ運河の座礁問題は日本にも大きな影響を与えています。
生ハム、チーズ、ワインといったヨーロッパからの食品が入ってこなくなったり
逆に自動車や衣料品、家具と言った輸出品もヨーロッパに届かなくなるという懸念があります。
また、コンテナ不足も心配されています。コロナ禍による巣ごもり需要の急増により世界的にコンテナ不足に陥っている中で、船上に留め置かれるコンテナが増えるため、拍車をかける事態にもなります
この巨大コンテナ船の座礁事故により1日あたり約1兆円相当の海上交通が停止しているようです。
周辺の土砂の取り除きは完了したようですが、果たして、無事座礁を解決することはできるのでしょうか?
学習「スエズ運河」から見る地理学のおもしろさ
●国から国への大規模流通の中心は海路である
●このルートを航行する上で絶対に通る海峡や運河のことを「チョークポイント」と言う
●アメリカが世界の覇権を握れている理由はチョークポイントを押さえている海軍の力
●ヨーロッパ諸国は石油の大部分を中東に依存しているため、スエズ運河は非常に大事な要所である。そのため、エジプトやジブチに防衛拠点を置いている
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