【解説】亡命中継地 -奇抜な2選-

世界の変わった国・場所

亡命とは、政治・人種・国籍・宗教・セクシュアリティなどの原因によって戦争・紛争・迫害から逃れるために仕方がなく定住国を脱出する行為のことを指します。似たような言葉に難民がありますが、基本的には亡命「行為」をしている人のことを指します。

貧富の格差が拡大し続けている現代において、多くの難民は貧しい国から豊かな国へと逃れるために「亡命」をしています。そして、豊かな国へと逃れるために亡命者が目指す場所「亡命中継地」と呼ばれる場所が世界には存在します。

亡命中継地と呼ばれる国、都市は世界中に数多くありますが、今回はその中でも非常に変わった2ヶ所を紹介したいと思います。

メリリャ・セウタ(スペイン)

亡命中継地の代名詞がアフリカ北西部沿岸に位置するセウタメリリャという都市です。ここは、モロッコと国境を共有するスペインの自治都市で、スペインはこの二都市をを併せてアフリカに9つの海外領土を所有しています(総称して、プラサス・デ・ソベラニアと呼ばれている)

© OpenStreetMap contributors https://www.openstreetmap.org/copyright

両都市は共にEUの特別地域の一つで、シェンゲン協定により両都市はヨーロッパへと国境検査なしで移動することができます。メリリャは港と空港を有しており、首都マドリードを含め3空港と空路が開設されています。

そんなメリリャ・セウタは、経済的に困窮したサブサハラアフリカ(サハラ砂漠以南)の住民がヨーロッパへ亡命するための中継地となっています。本来アフリカの難民にとって、ヨーロッパにたどり着くには最後は海を越えなければならないのですが、セウタ・メリリャはフェンスを越えるだけでたどり着ける「アフリカの中にある欧州」なのです。

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:(Melilla)Aterrizando_en_Melilla(16668390111).jpg

不法移民を阻む高さ約6メートルのフェンスは最上部に有刺鉄線が張り巡らされていますが、モロッコ側から毎日のように乗り越えようとするもので溢れています。スペイン景観や治安自治警察が常時パトロールをしていますが、頻度や数が多すぎて対応しきれていません。なかには、「群れ」と呼ばれる数百人が一斉にフェンスをよじ登ることもあります。

苦労の末フェンスを乗り越え、市内の移民収容所に入ることができれば、亡命申請を出すことができます。申請が通り、スペイン本土に渡った難民は毎年数千~万人にのぼります。ただし、大半の申請は却下され、国外追放となります。申請自体も数年以上かかる場合もありますが、それでもはるか海の先の楽園(ヨーロッパ)を求めて、現在も挑戦する者で後を絶ちません。一方、近年は「イスラム国(IS)」など過激派組織の温床になっていると警戒も強めています。

Gordon JohnsonによるPixabayからの画像

ダリエンギャップ(パナマ)

次にご紹介するのは一気に毛色が異なり、中南米・アフリカ・アジアなど約50以上の国の難民がアメリカに亡命するために目指すジャングルです。

南北アメリカ大陸には北米アラスカから南米パタゴニアまで縦断する「パンアメリカン・ハイウェイ」という膨大な長さの幹線道路があります。地図上で見るとひとつなぎに思えるのですが、実は一か所だけ(繋がっていない)空白地帯が存在します。それこそが、パナマにある「ダリエンギャップ(地峡)」と呼ばれる熱帯雨林です。

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:PanAmericanHwy.png

世界最強のパスポートを所持している日本人には理解しにくいことですが、アフリカなどの貧困国の国民はパスポートさえ持っていれば飛行機に乗り外国に入国できるわけではありません。日本人はビザなしで190ヶ国(世界一)に渡航できますが、貧困国は40~50ヶ国ほどしか渡航できません。そもそも、難民=国籍を有していないケースも多々あり、亡命とはとてつもなくハードルの高い行為なのです。

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では、なぜ世界中からアメリカに亡命するために「ダリエンギャップ」を目指すかというと、陸路の場合必ず通過しなければいけない要所だからです。南米から陸路でアメリカに抜けるための亡命ルートはパターン化されています。ビザなしで入国できるエクアドルに空路でたどり着き、そこからボートと徒歩でパナマのダリエンギャップを抜け、中米諸国を経由して米国を目指します。

ダリエンギャップには大きく3つの障壁があります。①密林や沼・沢、道なき道といった自然的な危険、②マラリヤや毒蛇といた生物的な危険、③麻薬カルテルや武装組織など(が多数潜んでいる)の人的な危険です。特に③は非常に厄介で、とりわけ子供たちが犯罪組織から性的虐待、人身売買、恐喝などの暴力にさらされています。

© OpenStreetMap contributors https://www.openstreetmap.org/copyright 

ダリエンギャップ越えは、コロンビアの港町トゥルボからボートに乗り込んでパナマ国境付近の町カプルガナにまで近づきます。到着後は、「コヨーテ」と呼ばれる密航手引き人とともに数十人の集団となってハイウェイ沿線までジャングルを突っ切ります。ここを通り抜けたからといってゴールではありません。しかし、命の危険性という意味では最大級の障壁を乗り越えることになります。

パンアメリカンハイウェイ https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Interstate_25_approaching_Santa_Fe_New_Mexico.jpg

余談になりますが、ダリエンギャップは建前上は莫大な開発費・自然問題・先住民問題といった意味合いから開発は進められてきませんでした。しかし、アメリカの本音から言うと、不法移民や麻薬組織の密売ルートを完全に確立させないための最後の砦とも言えます。意味もなく空白地帯にになってるのではなく、確実に地政学的要素に振り回されて現在に至っているのだと考えられます。

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