前回は、「世界一海から遠い都市」をご紹介いたしました。
今回はその真逆、世界一陸から遠い地点を見ていきたいと思います。
ただし、そこは結局海、なにもないはず。
そこに何か語れるものがあるのだろうかと疑問に思うかもしれませんが、かなり面白い事実がございます。
まずは、地点を確認していきましょう。
場所は南半球、南大西洋の南緯48.89度、西経123.45度にあります。
ニュージーランドとチリのほぼ中間地点と言えます。
この地点をポイント・ネモと言います。
名前の由来は、ジェール・ヴェルヌの小説「海底二万里」に登場するネモ船長から来ています。
偶然か、ネモはラテン語で「誰もいない」を意味するため、ピッタリな名前ですね。
ピトケアン諸島、イースター島、南極のメイハー島が最寄りの陸となりますが、その距離は2,690kmとあまりにかけ離れています。
ポイント・ネモはどの陸地からも最も遠く、海洋の到達不能極と言えます。
海上交通として使用されることもかなり少ない場所のため、まさに地球最後の空白地点とも言えます。
このポイント・ネモは、先ほどから申し上げている通り人が全く訪れることがない場所です。
その長所を活かして、ある分野の人間にとっては大変重宝されている場所です。
その答えは、ずばり宇宙産業です!
このポイント・ネモは人工衛星の墓地として活用されているのです。
国連宇宙部によると、これまでに世界各国が打ち上げてきた人工衛星は約8,000機を越えています。
人工衛星は半永久的に活動できるわけでなく、経年劣化して次世代機へと引き継がれていきます。
そして、役目を終えた人工衛星はどんな最後を迎えるのかというと、大気圏へ突入させて燃やし尽くします。
その際、8割は燃え尽きるのですが、残り2割は地球上にそのまま落ちてくることになります。
この人工衛星の落下地点こそがポイント・ネモであります。
世界一陸から遠い地点は、世界で最も人が住んでいない地点でもあり、そして、世界で最も落下被害が少ない場所と言えます。
そのため、宇宙飛行士の間ではこのエリアを「スペースクラフト・セメタリー」と呼ばれています。
ちなみにこのスペースクラフト・セメタリーの広さはおよそ1万㎢で、このエリアには航路や空路は一切ありません。
ポイント・ネモに沈んだ人工衛星の数は、既に200~300にものぼります。
将来的には国際宇宙ステーションもここに落下させる予定となっています。
これほど多くの人工衛星が落ちていると周辺地域に対する環境問題や生態系への影響はないのかという疑問が湧いてきます。
しかし、この地点があまりにも大陸から離れた場所にあるため、生物が生きるための栄養素が少なく、海洋生物も少ないと言われています。
多様な生態系を築けていないこの環境は海洋砂漠とも表現されており、ポイント・ネモは生物多様性への被害を最低限に抑えるベストな落下地点と言えます。
余談ですが、ポイントネモは、周辺の島からも2000km以上離れているため、国際宇宙ステーションが頭上を通過するときに最も近い人間が宇宙飛行士になることが度々あるようです。
学習ポイントネモから見る地理学のおもしろさ
●世界一陸から遠い地点は、宇宙船の墓地でもある。
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