【超詳細】世界のシリコンバレー5選を解説

世界・日本の〇〇【海外地名】

シリコンバレーとはカリフォルニア州サンフランシスコ南部にある地域の総称を指します。各種半導体メーカー(半導体の主原料であるシリコン)が集まっていたことに由来しますが、今やハイテク・イノベーション・ソーシャルメディア、スタートアップ企業といったIT産業の一大拠点となっています。

現在、シリコンバレーの成功は世界的にも知れ渡り、各国でIT産業の突出した集積地を「〇〇のシリコンバレー」と呼ばれるようになりました。今回は、そんな世界各国の「シリコンバレー」をご紹介していきたいと思います。

アジア(中国)のシリコンバレー 深圳

深圳(シェンチェン)は中国南部に位置し、香港と接している世界都市です。都市圏の人口規模は1500万人にものぼり、経済特区にも指定されています。古くは漁村でしたが、1980年以降に台湾や香港の下請け工場が集まりはじめたことを契機に世界中から数千以上の工場が建設され、深圳は「世界の工場」と呼ばれるようになりました。

当初は安価な労働力を背景に、海外企業の完全な下請けとして始まりましたが、時代が進むにつれ、「設計・製造・組み立て・検品・出荷」というサプライチェーンの川上から川下までが全てそろい、高速でものづくりができる都市として大きな発展を遂げました。

同時に横行したのが、パクリ産業でした。工場が点在する深圳では、そこから流出した技術・ノウハウを基に「山寨(さんさい)品」と呼ばれるコピー製品が横行しました。山寨品は圧倒的な安さを武器に、21世紀に入り世界中で爆発的に広がりました。

深圳の街並み

深圳が現在、「アジアのシリコンバレー」と呼ばれるまでに成長した経緯はここにあります。パクリ行為が横行しているがゆえに、それをビジネスとして成り立たせるためのシステムが生まれ、そのシステムが結果的に創造性やチャレンジ性に富んだ企業を大きくアシストしていったのです。

①多くの工場の集積②パクリ産業の革新が深圳の応用力を底上げし、技術開発にも繋げました。その後政府の国策の後押しもあり、優秀な人材・知識・技術が世界中から集まった深圳は、ハイテク産業の一大拠点へと進化していきました。今では、「深圳の1週間はシリコンバレーの1ヶ月」と言われるほどに猛スピードで変化し続けています。

現在は多くの海外企業や企業家が注目している都市の一つで、googleやappleの開発拠点もここにあります。また、若者の人口比率が異常に高く、スタートアップ企業ユニコーン企業も国内でトップクラスに点在しています。

深圳の夜景

深圳に本社を構える著名なIT企業

企業名事業内容
ファーウェイスマホ製造、通信設備の世界最大手、
テンセントIT(ゲーム,SNS等)、時価総額アジア1位
BYDリチウムイオン電池世界3位、EV開発
ZTEスマホ製造
DJIドローン製造世界最大手

インドのシリコンバレー バンガロール

インド南部に位置するバンガロールは、都市圏人口1000万にのぼる国内第3の都市です。バンガロールは1947年にインドが独立して以来、重工業、航空産業、宇宙産業、防衛産業など、国内の主要な研究施設が集中していました。この背景には、南インドがパキスタンや中国といった緊張関係にある国々から地理的に離れていたことが挙げられます。

1980年以降、インドのIT産業は急速に成長しました。その大きな要因は、①アメリカとの時差(約12時間)、②数字能力の高い国民性、③英語を話せる人間が多い、④賃金が安い、⑤ITが新しい産業であり、カースト(身分)制度と関係ない、ことが挙げられます。

こうした好条件に加え、バンガロールは、①標高1000メートル近い高原にあり、灼熱で知られるインドにおいて大変暮らしやすい気候であったこと、②デリーから離れており若者がのびのび過ごせる空気感があったこと、③技術系大学などの教育機関が多かったことが注目されました。

1981年にインド大手のソフトウェア企業がバンガロールでIT事業を開始したことを契機に、欧米企業が業務アウトソーシング先として注目を集めました。政府もこの事態を商機と考え、大規模な規制緩和と工業団地を造成するなどIT振興政策をとりました。結果、世界最大数のIT従業者を誇る都市にまで成長しました。

グーグルやマイクロソフトといった世界的IT企業が拠点を置き始めるようになり、実に海外からインドに進出している多国籍企業の約75%がバンガロールにオフィスを構えるに至りました。現在ではインドのIT企業の70%がバンガロールに集中しているとも言われています。

バンガロールに本社を構える著名なIT企業

企業名事業内容
ウィプロIT国内3位、国内が主力
インフォシスIT国内2位、海外が主力、時価総額国内4位。
エムファシス大手IT
マインドツリー中堅IT
IBM米企業だが、全社の1/3がインド人(13万人)

中東のシリコンバレー テルアビブ

テルアビブはイスラエル第2の都市です。イスラエル政府はエルサレムを「首都」としてますが、国際社会に認められておらず、経済・文化の中心地であるテルアビブが事実上の首都とみなされています。国の総人口約900万人に対して、テルアビブ都市圏の人口は約400万人にも及びます。

四国サイズくらいの小国であるイスラエルは、農業・灌漑、そしてハイテク及び電子ベンチャー産業において世界をリードするIT先進国です。建国当時こそ産業基盤は何もありませんでしたが、ドイツからの補償金やアメリカのユダヤ人社会から送られる寄付金などの海外からの資金援助で大きく経済を発展させていきました。

宗教的・歴史的背景より周辺国と外交関係を持たないイスラエルは早くから軍事分野に注力してきました。インターネット時代の到来を早くから予期していたイスラエル軍は、サイバー分野を強化し、サイバーセキュリティのスキルとノウハウを蓄積してきました。イスラエルには兵役があるので、これらの高度な技術を若者は早くから多く学びます。

mfvgmlによるPixabayからの画像

ソ連崩壊後に東欧より100万人近くの移民がイスラエルに集まり、その中には高度な専門技術を持つ研究者や技術者が多く含まれていました。彼らはテルアビブ周辺でいくつもの起業を行い、いつしか「シリコン・ワディ」と呼ばれるハイテク地域を形成していきました。現在、兵役時に得た技術・人脈を利用してここで起業する若者が非常に多く、スタートアップ企業が続々登場しています。

アメリカ以外の国の中で、NASDAQに上場している企業が最も多く、スタートアップ企業への人口一人当たりの投資額が世界一高いイスラエルのテルアビブは、Meta(旧Facebook)やGoogleなどの本場の世界的IT企業が集積していることから、「第二のシリコンバレー」とも呼ばれています。

テルアビブは地中海に面しており、ヨーロッパではリゾート地としても有名です。至るところにコワーキングスペースが存在し、仕事で交流した後にビーチに訪れて時間を過ごす人々が多いようです。

Volker GlätschによるPixabayからの画像

ヨーロッパのシリコンバレー ダブリン

ダブリンはアイルランドの首都にして、現在は「欧州のシリコンバレー」とも呼ばれています。アイルランドはかつて西欧の最貧国とも呼ばれていましたが、現在では最富裕国にまで成長しています。植民地型農業による脆弱な経済基盤の国が急成長した背景には、①アメリカとの関係性と②政府の経済政策が深く関わっています。

19世紀後半、イギリスの植民地支配に苦しんだアイルランド人は、同じ英語圏の国であるアメリカに多くが渡った歴史があります(実にアメリカ国民の10%はアイルランド系とも言われている)。そのため、アメリカとの結びつきが他の欧州諸国よりも強く、早くからアメリカ式資本主義概念を取り入れていました。

一方、アメリカにとってもアイルランドは非常に魅力的な条件が整った国でした。というのも、アメリカにとって①最適な時差に位置し、②人件費も安く、なにより③EUで唯一英語を公用語としているからです。「欧州市場攻略の起点となる」と注目したアメリカはアイルランドに積極的に投資を行いました。

さらに、アイルランド政府は1999年に法人税を32%から12.5%に下げるという大胆な政策に出ました。他のヨーロッパ諸国の法人税が約30%前後であるのに対して、欧州でハンガリーに次ぐ2番目の安さにまで下げたのです。農業国でしかなかったアイルランドは、外国企業に対して優遇税制措置を設けることで、その外国企業の成長に合わせて自国も成長することを戦略としたのです。

これに惹かれたアメリカの多国籍企業が生産拠点ヨーロッパ事業本部をアイルランドに次々と設立しました。2010年代にはGoogle,Meta,Twitterなどの多くの世界的IT企業がダブリンに欧州本部を設置し、それに後押しされる形でスタートアップ企業が続々流入した結果、ハイテク都市へと大きく変貌しました。

ダブリンの街並み Alexander GresbekによるPixabayからの画像

これに伴い、EUやそれ以外の地域から若者がタブリンに移り住み国際色豊かな都市へと生まれ変わりました。ダブリンは世界的にハイレベルな大学が多数がキャンパスを構えていることもあって、優秀で若い人材が豊富だと評判を集めています。現在、欧州一の若年人口比率を誇ります。

以上、ダブリンへのIT企業の進出の背景には、①安い法人税、②公用語が英語、③欧米両市場に近い、④高学歴の若い労働力の存在が挙げられます。現在、世界的IT企業が拠点を置いている地域はかつて船着き場であったことから、「シリコンドックス」と呼ばれています。

アイルランドと言えばアイリッシュパブ EvaBergschneiderによるPixabayからの画像

アフリカのシリコンバレー ナイロビ ラゴス

アフリカ大陸においてもIT産業の成長は著しく、とりわけフィンテック分野(金融サービスと情報技術を結びつけたさまざまな革新的な動き)への投資金額は全体の5割を占めます。なぜこの分野が急激に伸びているかというと、銀行などの金融インフラを使用できない人々をターゲットに含めたからです。

アフリカは今なお経済的な不安定さを理由に、銀行口座を持たない・銀行口座は持つが活用できない人々が大陸全体の半分以上を占めます。そこで、簡単に各種金融サービスにアクセスできる機会を提供し、格差の解消を目指すためにこの分野が急成長しました。今回、特に成長著しい2ヵ国(ケニア・ナイジェリア)をご紹介いたします。

ケニアの首都ナイロビは東アフリカのシリコンバレーとして「シリコン・サバンナ」と呼ばれています。急成長の背景には①アフリカ1のインターネット普及率の高さ(86%)と、②スタートアップの成長を支えるインキュベーション施設の充実がありますが、これを後押ししているのが「M-PESA(エムペサ)」と呼ばれる電子マネーの存在です。

ケニアの大手通信社のサファリコムが2007年に始めた携帯電話を使った送金・出金・支払システムで、今では当たり前になっているモバイル送金を世界で初めて導入したのがエムペサです。銀行口座がなくても携帯さえあれば利用できるのが最大の特徴で、銀行口座を持たない貧困層を中心に爆発的に広まりました

現在、その取引額はケニアのGDPのおよそ50%にまで及び、電子マネーの普及率は83%を越えています。ケニアではエムペサの普及とサービス拡大が進むにつれ、そのプラットフォームを活用した新たなイノベーションが創出され発展していってるのです。

街のいたるところで見かけるエムペサ https://commons.wikimedia.org/wiki/File:M-PESA_mobile_money_and_Equity_agent,_Nairobi,_Kenya.jpg

一方、ナイジェリアは人口2億人を越えるアフリカ最大の国で、アフリカ全体の人口の6分の1を占めています。将来、人口は4億人を突破し、中国、インドに次ぐ第三位の人口大国になると予想されており、この成長性に期待したMetaやGoogleが近年こぞって拠点を置くことを表明しました。

従来石油に依存した経済体制でしたが、そこから脱却し経済の多角化を進めており、最大都市ラゴスでは起業が相次いでいます。ナイジェリアの銀行口座保有率は50%以上と他のアフリカ諸国(20%以下)よりも高いことから、銀行と協力した電子決済・電子マネー・電子融資システムの開発が進められています。

かつてイギリスの植民地であったことから英語が公用語とされており、欧米の大学などで学んだ優秀な若者が自国に戻り起業する傾向にあります。一方、規制、ビジネス環境、納税条件などの不都合と資金調達における観点から、スタートアップ企業の多くは国外に本社を置いています。

ラゴスの街並み Photo by Nupo Deyon Daniel on Unsplash

この2都市は、共にフィンテック分野に注力している点では同じですが、その方向性は対照的です。

既存金融が未発達なケニアは、銀行から独立した自社サービスを成長させる傾向にあります。一方、ナイジェリアはある程度金融インフラが整っているため、既存金融機関と提携する傾向にあります。

また、ケニアは外国人も多くビジネス環境も比較的安定しているため、現地拠点で資金調達が行われています。しかし、実情はケニア在住の外国人が同じくケニア在住の外国人起業家に支援しているばかりで、現地の起業家は立場が弱いケースが多いです。一方、ナイジェリアは現地人が創業者であることが多い代わりに、資金調達を行うために海外に本社を置いている傾向にあります。

いずれにせよ、アフリカでのIT産業のキーワードは「金融包摂(すべての人に金融サービスを提供)」に尽きます。

東京の街並み Phongsak ManodeeによるPixabayからの画像

日本のシリコンバレーはあるのか?

日本においても「日本版シリコンバレー」を作ろうとする動きがあります。2020年7月、内閣府がベンチャー企業の活動拠点となる都市を整備するために「スタートアップ・エコシステム拠点都市」を発表しました。選定されたのは、東京、愛知、大阪、福岡を中心とする4つの都市圏です。

この事業では、各拠点において①資金援助の支援、②ユニコーン企業の増加、③海外起業家の誘致を目指しています。世界には500社を越えるユニコーン企業が存在しますが、日本には2021年8月時点で6社しあかりません。政府は今後3年間を集中支援期間と位置づけ、大幅な規制緩和を進めていく方針のようです。

日本のユニコーン企業

企業名事業内容
Preferred NetworksAI開発
SmartHR人事労務ソフト
スマートニュース情報アプリ
Paidy後払い決済
リキッドグループ暗号資産交換業
Playcoモバイルゲーム開発

なぜこれまで「日本版シリコンバレー」が誕生しなかったかというと、日本の経済モデルが古いままだからです。日本経済は常に「追いつけ追い越せ」という精神の下、追い付き型成長モデルを追求してきました。このスタイルは革新(破壊)は苦手だが応用は得意で、日本はこのスタイルで世界一の経済大国にまで上り詰めました。しかし、この成長モデルは現在終焉を迎えており、結果として革新的なイノベーションを起こせずにいます。

そして、これまで築いてきた日本の企業風土と制度的基盤が簡単には変化を許してくれません。例えば、「失敗を許さない文化」は起業を阻害し、「終身雇用制」は優秀な人材の流動性を低くし、退職・転職=裏切りの印象を与えています。「資金援助の少なさ」は、大企業が自社開発に比重を置き、スタートアップ企業との協業に興味を示さない風土から来ています。

新たに挑戦できる「社会的セーフティネット」を整備し、イノベーション型成長モデルに移行していくことが今後の重要な政策課題です。かつてのメルカリに代表されるようなユニコーン企業が今後続々登場する国へと変化する一つのきっかけとして、「スタートアップ・エコシステム拠点都市」が上手く効くことを願います。

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